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公益法人が借入を行うときの留意点

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 公益法人も金融機関からの融資といった借入を行うことはできる。
  • 「多額の借財」の場合は、代表理事や業務執行理事が単独で借入を行うことはできず、理事会決議を経る必要がある。
  • 「多額の借財」の判断については、法令上具体的な基準はなく、法人の状況を総合的に判断して決定することになる。

1.はじめに

 公益法人(注)も金融機関からの融資といった、借入を行うことができます。

 金融機関関係者から聞いた話では、公益法人は借入を行うことができないと思われている法人が意外と多い、ということですが、公益法人が借入を行うことについて、法令上何ら制限はありませんので、公益法人も借入を行うことはできます。従って、公益法人が借入を行うことは全く問題はありません。

 ただし、ガバナンスの観点から、法令上、借入を行う場合は一定の規制が設けられています。

 そこで、今回は、公益法人が借入を行う場合の留意点について説明します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

(注:本稿では、便宜的に「公益法人」とは、一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人を指すものとします。)

2.借入を行う場合の法令上の留意点

 公益法人においては、法人の業務を執行できるのは、理事のうち代表理事及び業務執行理事となります(理事会設置法人の場合。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)91条1項、197条)。

 

 従って、借入を行うことも法人の業務の1つですから、例えば、金融機関から融資を受ける場合も、代表理事や業務執行理事が行うことができる業務の範疇ではあります。

 

 しかしながら、一般法においては「理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。」と規定し(一般法90条4項、197条)、その1つとして同条同項第4号で「多額の借財」を挙げています。

 これは、公益法人が多額の借入を行うときは、理事会の決議が必要であるということを意味します。

 

 本来であれば、借入行為も理事の業務執行の一つであるため、上記の通り、代表理事及び業務執行理事が単独で行うことができるはずです。

 しかし、多額の借財の場合、場合によっては資金の返済が困難となるリスクもあります。返済が滞った場合、例えば、担保に供した法人の資産が競売にかけられてしまうということもありえます。このように資金繰りが悪化すると、公益目的事業の遂行、さらには法人運営にも深刻な影響が出るリスクがあります。

 

 そのため、一般法は、このような多額の借財については、理事会において慎重に意思決定を行うことを求めています。

3.「多額の借財」の意義

 ここで「多額の借財」の意義が問題となります。

 「多額」といってもどのぐらいの金額を「多額」というのかがはっきりしないと、理事会の決議にかける必要があるのかどうかがわからなくなりますが、実は、法令には明記されていません。

 

 そこで、会社法における判例を参考としてみます。

 

 東京地裁平成9年3月17日の判決によれば、多額の借財に該当するかどうかについては「当該借財の額、その会社の総資産及び経常利益等に占める割合、当該借財の目的及び会社における従来の取扱い等の事業を総合的に考慮して判断されるべきである」としています。

 

 従って、多額の借財といった場合は、法令上、具体的な金額基準はなく、各法人の状況によって判断するということになります。

 

 しかし、判断基準を明確にしていないと、その都度、多額の借財の判定が一貫しない可能性が出てきます。

 そこで、実務上の対策としては、理事会運営規程などに、例えば、

  • 「◯千万円以上の融資を受ける場合は、理事会の決議を経るものとする。」
  • 「正味財産の◯%以上の融資を受ける場合は、理事会の決議を経るものとする。」

といったように、具体的な判断基準を法人内で決めておくとよいと思います。

4.まとめ

 このように、公益法人が借入を行う場合は、多額の借財に該当するのであれば、理事会決議を経る必要があります。

 借入に限らず、法人運営に大きな影響を与えるリスクがある業務の執行については、理事会において慎重な意思決定を行うことが、ガバナンスの面において必要といえます。

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、海外子会社のJ-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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