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粉飾による倒産増加~金融機関と公認会計士の連携の必要性

公認会計士・税理士 森 智幸

1.中国地方における倒産の増加

 令和2年2月4日の日本経済新聞に、日本の中国地方で粉飾決算を原因とする倒産が増加しているという記事が掲載されていました。

 記事によると、東京商工リサーチ広島支社の調査の結果、粉飾による倒産は、令和元年では10件、令和2年も1件発生したということです。そして、粉飾が発覚した結果、「金融機関から融資の継続を受けられず、借金返済の遅延や資金ショートで倒産に追い込まれた例が多かった。」(記事引用)ということです。

 さらに、「粉飾倒産が顕在化しつつある現状に、金融庁関係者も警鐘を鳴らしている。」(記事引用)と記載されています。

 本ブログでは、粉飾を防止して、健全な融資を行うことができるよう、金融機関と公認会計士の連携の必要性について記載したいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。 

2.粉飾が発覚する背景

中国地方で倒産急増

 しかし、なぜこの時期になって急に、粉飾決算を行っていたことが発覚した会社の数が急増しているのでしょうか。

 

 記事によると、地域金融機関は最近になって、融資先のチェックを厳しくしているという背景があるようです。

 

 さらに、その背景には、近年の低金利のため、中国地方の地方銀行や信用金庫は収益性が低下してきていることがあるようです。すなわち、地域金融機関は、融資量で収益を確保しようとして無理な融資を続けてきたということです。これは、販売業でいう薄利多売に相当します。

 

 しかし、破綻懸念先ではない融資先で粉飾が発覚したため、中国地方の地域金融機関は一般貸倒引当金を大幅に積み増すようになってきているそうです。すなわち、多額の融資をし続けた後、一部で危険な融資先が出てきたため、慌ててチェックを厳しくしたということでしょう。

 すると、チェックを厳しくした結果、粉飾がバレた会社が多数出てきたということと推測されます。

3.粉飾の手口

 記事では、粉飾の手口も紹介されています。

 島根県の会社の場合、「架空の棚卸し資産を計上する」「金融機関からの借入金を圧縮して計上する」といった手口ということです。この会社は、債権者説明会で粉飾決算を約35年間重ねていたことを認めたそうです。

 

 さて、これらの粉飾の手口ですが、かなり古典的な手口といえます。

(1)架空の棚卸資産の計上

 まず、「架空の棚卸し資産を計上する」ですが、何が目的かというと、棚卸資産を過大計上して売上原価を圧縮し、売上総利益を過大計上することが目的です。

 

 売上原価は、期首棚卸高+当期仕入高ー期末棚卸高 という計算式で計算されます。

 簡単な数値例を使うと、期首棚卸高50+当期仕入高100-期末棚卸高40=売上原価110 という計算式になります。

 また、売上高を200とします。そうすると、売上総利益は売上200-売上原価110=売上総利益90 ということになります。

 

 しかし、ここで期末棚卸高を20架空計上によりかさあげして60にしたとします。

 そうすると、売上原価は、期首棚卸高50+当期仕入高100-期末棚卸高60=売上原価90 となります。

 その結果、売上総利益は、売上200-売上原価90=売上総利益110 となります。

 

 比べるとわかると思いますが、粉飾前の売上総利益は90だったのに対して、粉飾後は110となり、20増加しています。

 これは、棚卸資産を20架空計上したためです。

 

 なお、単純に期末棚卸高を増加させたらバレバレなので、おそらく、実際の当期仕入高は増やしつつ、期末棚卸高を微増することを繰り返していたのではないかと推測します。そうすると、仕入高が増加しながら、期末棚卸高も増加しているので、何となくそれらしい形になっているし、さらに単価が上昇しているから、という説明もつけると、一見するともっともらしく見えてしまいます。

(2)架空棚卸資産の見抜き方~公認会計士はこう見る

 この架空の棚卸資産の見抜き方ですが、監査手続としてはいくつかあります。

 まず、回転分析です。棚卸資産の回転期間を月単位で見て、異常な変動の有無をチェックします。おそらく、金融機関でも回転期間分析は行っているのではないかと思いますが、金融機関で行っている回転分析は期末残高ベースだと思います。

 しかし、公認会計士が行う回転分析は、月ベースで行います。期末残高ベースだと、大まかな動きしか見えないからです。

 月ベースで行うと、期中での回転期間の動きがわかります。今回のような、架空の棚卸資産を期末決算時に一括計上していれば、期中の回転期間と、期末月の回転期間に差が出てきます。このようなことが発覚すると、公認会計士は経理担当者に「何で、期末付近で急に回転期間が変わってきているのですか」と質問します。このように、分析と質問により、粉飾がわかることもあります。

 あと、ついでにいうと、棚卸資産はいくつかの主要製品別に見ていきます。貸借対照表に計上されている棚卸資産合計額を使っていては、きめ細やかな分析ができないからです。

 

 また、棚卸資産については、財務諸表監査では、必ず棚卸の立会を行います。

 立会では、監査人が棚卸しの現場に赴いて、棚卸しの様子を観察するとともに、自らもテストカウントを行います(帳簿と同数の棚卸資産が実際にあるかというテストと、実物の棚卸資産が帳簿上に網羅的に計上されているかというテストの2種類を行います)。その他、カットオフテスト、預かり品の有無、棚卸資産の陳腐化の状況などいろいろと調べます。

 架空資産に対しては、前述のテストカウントによりチェックします。このような監査手続を行って棚卸資産の実在性を立証します。

(3)借入金の圧縮計上

 金融機関からの借入金を圧縮して計上するということも行っていたそうですが、これは簿外負債の計上です。つまり、負債の一部を帳簿に載せないということです。

 推測ですが、この簿外負債となった相当額は、おそらく売上に計上したのではないかと思います。つまり、架空売上です。このようにして、売上総利益や純利益をかさあげして、経営成績が順調であるように見せかけたのだと思います。

 これも、かなり古典的な手口です。

(4)簿外負債の見抜き方~公認会計士はこう見る

 簿外負債についても、監査手続はいくつかあります。

 まず、借入金の平均残高と平均利率を使って、支払利息の推定値を算出します。この推定値と実際の支払利息額に大きな差があれば、簿外負債の計上の疑いが出てきます。この監査手続は分析的手続といいます。

 

 また、財務諸表監査では、必ず金融機関に残高確認を行います。この確認という監査手続は「監査法人が銀行等に残高確認書を送る理由」に記載したとおり、「紙媒体、電子媒体又はその他の媒体により、監査人が確認の相手先である第三者(確認回答者)から文書による回答を直接入手する監査手続」をいいます。

 この残高確認の回答により、金融機関の貸付残高がわかりますので、簿外負債を計上していてもすぐに分かってしまいます。

4.望まれる金融機関と公認会計士の連携

 このように、公認会計士は監査現場でいろいろな監査手続を行ってきているため、単純な粉飾はすぐに見抜くことができます。

 記事によれば、地方銀行で、粉飾を見抜くための研修が増えているということですが、金融機関の場合、会計データ(全仕訳データ)や証憑類をチェックするまでは行っていませんから、粉飾を見抜くといっても限界があると思います。

 そこで、金融機関は公認会計士との連携を行うことが考えられます。具体的には、融資を行うには、例えば、公認会計士による任意監査を行うことを条件とするといった具合です。任意監査でなくとも、特別目的の財務諸表監査や監査ではありませんが、合意された手続(AUP)という手段もあります。

 その他にも、金融機関が指定した公認会計士に会計参与になってもらう、あるいは監査役に就任してもらうということも考えられます。

 このように、会計のプロフェッショナルである公認会計士と連携することで、粉飾を未然に防ぐことができれば、融資が焦げ付くというリスクも減少させることができます。

 特に、地方銀行や信用金庫といった地域金融機関は地域経済を支えていくという役割も担っています。従って、金融機関は公認会計士との連携を深め、会計のモニタリングを強化していくべきと思います。 

合意された手続(AUP)のことなら、京都の森 智幸 公認会計士・税理士事務所まで!