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監査法人が銀行等に残高確認書を送る理由

公認会計士・税理士 森 智幸

1.はじめに

 財務諸表監査では、監査法人又は公認会計士(以下「監査法人等」)がいろいろな監査手続を行います。その中で、どの監査法人等も必ず行うのが、銀行等に対する残高確認書の発送です。

 上場会社など、昔から財務諸表監査を受けられている会社等では、毎期恒例の監査対応ですが、近年は、社会福祉法人や医療法人にも法定監査が行われるようになり、財務諸表監査を初めて受けられる法人が急増しましたが、「なぜ、法人が手数料を負担してまで、残高確認書を作成しなければならないのか」と思われた社会福祉法人や医療法人もあったようです。

 そこで、今回は、監査法人等がこの監査手続を行う理由を説明します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.そもそも確認とは

 まず、確認の意義を見ておきます。

 「監査基準委員会報告書の体系及び用語」付録2の用語集No21では、

 

 「紙媒体、電子媒体又はその他の媒体により、監査人が確認の相手先である第三者(確認回答者)から文書による回答直接入手する監査手続をいう。」

 

 とされています(赤文字は筆者)。

 

 このうち、最も重要なのが「直接入手する」という点です。

 これはもう少し具体的に言うと、被監査会社又は被監査法人、つまり監査を受ける側の手を介さずに、監査人が直接、相手先から文書による回答を得る、ということです。

 なぜ、監査を受ける側の手を介してはいけないのかというと、監査を受ける側に回答文書が渡ってしまうと、改ざんの恐れがあるからです。

 そのため、回答文書は、監査人が相手先から直接入手する必要があるというわけです。

 従って、確認による回答は、強い証明力を持つとされています。

3.「残高証明書」ではダメな理由

 初めて財務諸表監査を受けられる会社等の中には、「ウチはちゃんと残高証明書をとっています。なぜ残高証明書ではいけないのですか?」という質問がときどきあります。

 なぜ、残高証明書では、残高確認の代替にはならないのかというと、上記2に記載したように、残高証明書は、会社等が入手した文書なので改ざんされているリスクがあるからです。これがまず第一の理由です。

 

 第二の理由は、監査法人等が行う残高確認は、預金や借入金の残高だけではなく、他の情報も入手するために行われるからです。残高証明書では、残高以外の情報を得ることができません。なお、この論点は、次の章で記載します。

4.残高確認の回答から得られる情報

 それでは、他の情報とはどのようなものでしょうか。

 具体例をあげると、担保情報、デリバティブ情報、保証状況などです。

 なお、担保については、金融機関によっては残高証明書に記載しているところもありますが、私の経験上、これはかなり少ないです。

 

 監査法人等が送る残高確認書には、これらの情報を記載する欄があります。

 一例として、日本公認会計士協会によるひな形をご紹介します。日本公認会計士協会のHPには「監査委員会研究報告第6号「銀行等取引残高確認書及び証券取引残高確認書の様式例」というページがありますが、この中に日本公認会計士協会作成による雛形が添付されています。こちらを参照していただければ、預金や借入金(銀行等からみると「貸付金」)の欄以外に、割引手形残高、担保物件、債務保証、デリバティブ取引などの欄が設けらていることがおわかりになると思います。

 銀行等と被監査会社との間に、これらに該当する取引があれば、銀行等はこの欄に該当事項を記載することになります。

5.監査人が重視する情報

 この章では、残高確認書の回答で残高以外の情報のうち、重視する情報を記載します。

 ただし、重視する情報は被監査会社によって異なりますので、あくまで一般論であることにご留意ください。

(1)預金担保

 ひとつは預金担保です。

 預金担保とは、会社等が銀行等から融資を受けるときに、会社等が保有している預金を担保にすることです。一般的には定期預金を担保にすることが多いと思います。

 

 なぜ、重視するのかというと、この預金担保を使って、簿外で借入が行われるリスクがあるためです。

 そのため、担保に供された預金がないかどうかを残高確認書の回答に基づいて確かめるわけです。

 

 ちなみに、この預金担保については、必ず実査と確認のあわせ技で行います。

 監査法人等は期末付近で実査を行いますが、このとき通帳の実査も行います。従って、定期預金の通帳や預金証書についても必ず実査を行います。もし、定期預金を担保に供している場合は、金融機関が発行した預り証があるはずですから、預り証について実査を行います。

 まず、この実査の時点で、預金を担保にした借入がないかどうかを把握します。

 

 ここで疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。

 実査の時点で、預金通帳や預金証書等について実査を行い、預金を担保にした借入がないかどうかを確かめたのであれば、なぜ金融機関に対して残高確認書を郵送するのか、と。

 

 この点については、例えば次のようなリスクがあるためです。

 

 ①実査に提示された預金通帳や預金証書が偽造されているリスク

 ②一時的に預金通帳や預金証書を返却してもらっているリスク

 

 このようなリスクがあるため、実査だけでは預金を担保にした借入の有無を立証できないことから、残高確認も行うというわけです。

 

 では、逆に、残高確認を行っているのであれば、実査は不要なのではないかというとそういうわけには行きません。

 例えば、A銀行に定期預金があるとして、被監査会社がB銀行に対してA銀行の預金証書を担保にして借入を行い、さらにこの借入金は簿外処理しているというケースを想定してみます。なお、B銀行には預金口座を持っていないとします。

 この場合、A銀行に出した残高確認書の回答には、この定期預金について担保に供されている旨の記載はありません。なぜかというと、自分のところに担保に差し出されてはいないからです。

 一方で、B銀行には預金がないことから、残高確認は行わないことになります。

 そうなると、A金融機関に対する残高確認だけでは、預金担保の有無はわかりません。日本の全ての金融機関に残高確認書を郵送すればわかるかもしれませんが、費用対効果の観点から、いくらなんでもそのようなわけにはいきません。さらにいうと、金融機関に該当しないノンバンクや事業会社から借り入れている可能性もあります。

 従って、残高確認だけでは不十分であり、必ず実査もあわせて行います。 

(2)デリバティブ取引

 デリバティブ取引に関する情報も重要な情報です。

 デリバティブ取引は簿外で行われるリスクがあるため、残高確認の回答は重要なものとなります。

 仮に被監査会社が「デリバティブ取引は行っていません」と言っていても、残高確認の回答によりデリバティブ取引を行っていることが発覚することがあります。

  

 このデリバティブ情報ですが、よく出てくるのは、金利スワップです。

 金利スワップは、原則として時価評価することになりますが、一定の要件を満たした金利スワップについては、支払利息に加減して処理することができるとされています(金融商品会計基準(注14)、金融商品会計に関する実務指針177項、178項)。

 ちなみに、要件は以下のとおりです。

 

① 金利スワップの想定元本と貸借対照表上の対象資産又は負債の元本金額がほぼ一致していること。

② 金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致していること。

③ 対象となる資産又は負債の金利が変動金利である場合には、その基礎となっているインデックスが金利スワップで受払される変動金利の基礎となっているインデックスとほぼ一致していること。

④ 金利スワップの金利改定のインターバル及び金利改定日がヘッジ対象の資産又は負債とほぼ一致していること。

⑤ 金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であること(同一の固定金利及び変動金利のインデックスがスワップ期間を通して使用されていること。)。

⑥ 金利スワップに期限前解約オプション、支払金利のフロアー又は受取金利のキャップが存在する場合には、ヘッジ対象の資産又は負債に含まれた同等の条件を相殺するためのものであること。

 

 残高確認の回答には、これらに関する情報が記載されていますので、被監査会社が金利スワップの特例処理を行っている場合、金利スワップの契約書の閲覧とあわせて、これらの要件をすべて満たしているかどうかを確かめていきます。

 これらの要件をすべて満たしていると監査人が認めれば、被監査会社が行っている金利スワップの会計処理は妥当であると判断します。

 このような情報は、被監査会社が保有している契約書だけでは立証できません。なぜかというと、契約書が偽造されているリスクがあるためです。一方で、金融機関による文書の回答は証明力が強いため、残高確認の回答に基づく情報は重要なものとなります。

6.まとめ

 このように、残高証明書は被監査会社が保有する内部証拠なので偽造のリスクがあります。そのため、監査証拠としての証明力は弱いため、監査証拠として使用することができません。

 また、銀行等に発送した残高確認書の回答は、預金や借入金の残高に加えて、いろいろな情報も記載されています。一方、預金や借入金の残高しか記載されていない残高証明書ではそれ以外の情報がわかりません。

 従って、残高証明書では不十分であり、銀行等に対して残高確認書を発送する必要があるわけです。

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