公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 監事を選任する場合は、理事は議案提出前に、監事の選任における監事の同意を得なければならない。
- 監事の同意は、法令で文書での入手が求められているわけではないが、文書にするほうが同意の旨が明らかになる。
- 同意書を入手するタイミングについても、法令上の規定はないが、理事会開催前に入手すると、スムーズに監事選任の手続きが進むと思われる。
1.はじめに
公益社団法人・公益財団法人(以下、公益法人)、一般社団法人・一般財団法人(以下、一般法人)では、監事を選任する場合は、監事の同意を得なければなりません。
今回は、この監事選任のプロセスと監事の同意書の文例を紹介したいと思います。(理事会設置法人を前提とします。)
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.監事の選任のプロセス
監事は、社員総会または評議員会の決議によって選任されます(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、「一般法」)63条1項、177条)。
社員総会または評議員会の決議を経るには、その前に理事会において監事の選任に関する議案を定める必要があります(一般法38条1項2号、181条1項2号)。
このように、監事の選任に関する議案を理事会で決議したうえで、この議案を社員総会または評議員会に提出し、社員総会または評議員会の決議により、監事が選任されます。
3.監事の同意書の文例
(1)趣旨
以上のプロセスは、多くの公益法人では問題なく行われていると思います。
しかしながら、監事の選任においては忘れがちな点があります。それは、監事の選任に関する監事の同意です。
実は、理事は、監事がある場合において、監事の選任に関する議案を社員総会または評議員会に提出するには、監事(監事が二人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければなりません(一般法72条1項、197条)。
この趣旨は、監事の地位の安定性を確保するためと考えられます。すなわち、理事にとって都合のよい者が監事に選任されると、理事の職務の執行の監査を行う監事の役割が没却してしまうことになりかねません。そのため、選任前に他の監事の同意を得ることで、理事にとって都合のよい監事が選任されることを防止し、適切なガバナンスを確保できるようにしているものと考えられます。
この同意については、法令上、文書で同意を得なければならないという規定はありませんが、監事が同意をしたということを明らかにするため、文書で同意した旨を明らかにしておくことが望まれます。
(2)文例
以下は、監事の同意書の文例です(公益社団法人の場合を想定しています)。社会福祉法人の例になりますが、島根県の様式例を元にして作成してみました。
なお、この同意書は就任承諾書とは異なりますので、注意する必要があります。
公益社団法人○○協会 理事長 ○○○○ 様
同 意 書
私たちは、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第72条の規定に従って、下記3の議案を今回開催する社員総会に提案することに同意いたします。
記
1 社員総会開催日時 令和○年○月○日 ○時○分から○時○分まで(予定)
2 社員総会開催場所 ○○ホテル
3 議案の概要 次期監事に○○○○氏を選任すること
令和 年 月 日
監 事 印 監 事 印
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(島根県の様式例を参考にして作成)
(3)同意書の入手のタイミング
この監事の同意書を入手するタイミングについては、法令上、具体的な定めはありません。
監事の選任に関する同意なので、監事の選任決議が行われる社員総会または評議員会の前までに入手できれば問題はありません。
ただ、理事会開催前にこの同意書に署名押印していただき、理事会で報告するとスムーズに進むかと思います。
4.おわりに
今回は、監事の選任に関する監事の同意について説明しました。
監事の改選期においては、法令上、この手続きが必要なので、注意する必要があります。
今回のブログが実務の参考になりましたら幸いです。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。
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