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関連当事者との取引に係る開示|公益法人の留意点をわかりやすく解説

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 公益法人における関連当事者取引は、役員又は評議員及びそれらの近親者との取引が多い。
  • 役員又は評議員及びそれらの近親者が議決権の過半数を有している法人との取引も関連当事者となる。
  • 役員又は評議員及びそれらの近親者との取引は、100万円を超える取引はすべて開示対象となる。

1.はじめに

 公益社団法人および公益財団法人(以下「公益法人」)においても、一定の場合は関連当事者との取引の開示が必要です。

 関連当事者との取引は、法人と関連当事者との間で対等な立場で行われているとは限らないため、法人の財政状態や経営成績に影響を及ぼすこともありえます。また、直接の取引がない場合でも、関連当事者の存在自体が、法人の財政状態や経営成績に影響を及ぼすこともありえます。

 公益法人会計基準(以下「基準」)では、このような取引や関連当事者の存在が与えている影響を公益法人の財務諸表利用者が把握できるように、関連当事者との取引の内容について注記を記載することが求められています。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

2.関連当事者の範囲

(1)公益法人会計の実務で見られるケース

 まず、公益法人会計における関連当事者の範囲は以下のとおりです(基準注17)。

 

(1) 当該公益法人を支配する法人

(2) 当該公益法人によって支配される法人

(3) 当該公益法人と同一の支配法人をもつ法人

(4) 当該公益法人の役員又は評議員及びそれらの近親者

 

 公益法人会計の実務では、このうち(4)の「 当該公益法人の役員又は評議員及びそれらの近親者」との取引が対象となるケースが多くなります。

 

 公益認定を受けた公益法人は、公益認定の基準の一つとして「他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の内閣府令で定める財産を保有していないものであること。」が求められていますので、(2)のケースはまず見られません(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」第5条15号)。

 また、(1)のケースはまれにありますが、多くはありません。(なお、運用指針6(1)①では「国及び地方公共団体については、公益法人の監督等を実施していることをもって、ただちに支配法人とはしないが、上記ア~ウに該当しない場合であっても、国又は地方公共団体が当該公益法人の財務又は事業の方針を決定する機関を支配している一定の事実が認められる場合には、当該公益法人は、国又は地方公共団体を支配法人とみなして公益法人会計基準注解の注17に定める注記をすることが望ましいものとする。」としています。

(3)は兄弟法人のケースですが、これは見たことはありません。

 

 したがって、以下では(4)のケースについて説明します。 

 

(2)当該公益法人の役員又は評議員及びそれらの近親者とは?

 それでは、「公益法人の役員又は評議員及びそれらの近親者」とは具体的にはどのような範囲となるのかという点ですが、こちらは「「公益法人会計基準」の運用指針」(以下「運用指針」)の6(1)4に規定されています。

 運用指針によると以下のとおりです。

 

①役員又は評議員及びそれらの近親者(3親等内の親族及びこの者と特別の関係にある者)
②役員又は評議員及びそれらの近親者が議決権の過半数を有している法人
 ただし、公益法人の役員又は評議員のうち、対象とする者は有給常勤者に限定するものとする。

 

 ①の留意点ですが、公益法人会計における近親者は「3親等内」となります。

 企業会計では「二親等以内の親族」(関連当事者の開示に関する会計基準5(8))となっていますが、公益法人会計のほうが範囲が広くなっています。(注:表記は原文ママです。)

 

 次に②のケースは文章だとわかりにくいので、図で示してみます。

 

【図1】

 上記の図は赤い◯の人がA公益社団法人の有給の常勤理事であるとしたものです。

 この理事がX株式会社の一人株主で議決権を全て所有しているものとします。この場合、このX株式会社はA公益社団法人の関連当事者となります。②はこのようなケースを想定しています。

 ここで、例えば、X株式会社がA公益社団法人に土地を売却したとします。その場合、この土地の売買取引は関連当事者取引に該当します。この後に記載しますが、この金額が100万円を超える場合は、開示対象となり、注記が必要となります。 

 

 なお、この規定は公益財団法人の評議員も対象となっています。ただし、有給で常勤の評議員という人は、私自身は見たことがありません。このケースはあまりないのではないでしょうか。

 

3.公益法人会計における重要性の基準

 公益法人会計における開示の対象となる重要性の基準ですが、ここでも「役員又は評議員及びそれらの近親者との取引」についてのみ記載します。

 

 「役員又は評議員及びそれらの近親者との取引」については、正味財産増減計算書項目及び貸借対照表項目のいずれにかかる取引についても、100万円を超える取引については全て開示対象となります。

 

 公益法人会計では100万円(ひゃくまんえん)となる点に注意が必要です。

 企業会計では関連当事者が個人の場合は1,000万円を超える取引が開示対象となっていますが(「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」16)、公益法人会計では一桁少ない100万円となっています。したがって、企業会計のときと混同しないよう、注意する必要があります。

 

4.公益法人で想定される例

 役員又は評議員及びそれらの近親者との直接の取引としては、例えば、公益法人が借入を行い、その借入について代表理事が個人保証を行うというケースが想定されます。

 

 次に、公益法人では、理事が経営する株式会社との取引はときどき見られますが、「役員又は評議員及びそれらの近親者が議決権の過半数を有している法人」との取引は、有給の常勤者に限定されているため、関連当事者取引の注記が行われることはあまり多くはありません。

 

 理事が経営するホテルや旅館(そのホテルや旅館は株式会社が運営)で、理事会、社員総会、評議員会終了後に懇親会を開催するということは公益法人ではよく見られますが、もしその理事が有給の常勤理事であった場合は関連当事者取引となります。

  

 また、観光協会あたりでは、理事が経営する店(株式会社が運営)から、地元のお祭りのときに配付するノベルティ用のグッズやお菓子などを購入するといったケースもありますが、もしその理事が有給の常勤理事であった場合は関連当事者取引となります。

 

 したがって、まず、公益法人としては、役員と公益法人との取引があるかどうかを調べる必要があります。そして、関連当事者取引であると認められた場合は、金額が100万円を超えた取引について注記する必要があります。

 

5.おわりに

 関連当事者は通例ではない異常な取引により、法人の財政状態や経営成績に大きな影響を与える可能性もあるため、注記により財務諸表利用者が把握できるようにする必要があります。

 公益法人では、関連当事者取引の開示はあまりなじみがないのではないかと思いますが、公益法人会計基準でもこのような規定が設けられているので、注意が必要です。

 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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