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理事が退任後、監事に就任することの可否について~公益法人

KEY POINTS

  • 理事が退任後、監事に就任すると自己監査の可能性が出てくる。
  • 会社法の判例では、横すべり監査役は違法とはいえないとしていることから、公益法人においても横すべり監事は法令上は問題はないと考えられる。
  • しかし、ガバナンスの観点からは、横すべり監事はなるべく避けるほうがよいのではないかと思われる。

1.はじめに

 公益法人において、理事に就任していた人が理事を退任後、すぐに監事に就任するというケースも法人によってはあるかもしれません。

 今回はこのような横すべり監事の就任の可否について、会社法における横すべり監査役の論点を参考にして記載します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

(本文中の「公益法人」は一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人を指すものとします。)

2."横すべり監事"の問題点

(1)問題点

 会社法ではこのように取締役を退任後、すぐに監事に就任するケースを「横すべり監査役」という言い方をしています。

 公益法人においても、このように直前まで理事だった人が、社員総会又は評議員会において監事に就任するケースがあるかもしれませんが、このような横すべり監事については、自己監査の問題が考えられます。

 

 具体的に言いますと、例えば、3月決算の公益法人(理事会設置法人とします)が、✕1年6月27日に定時社員総会または定時評議員会を開催するとします。

 この定時社員総会または定時評議員会において監事を選任する場合に、直前まで理事だった人が監事に就任したとします。

 この場合、監事の監査の監査対象期間は、✕1年4月1日から✕2年3月31日となります。

 しかし、この監事は✕1年4月1日から✕1年6月26日までは理事でした。

 すると、以下の問題が生じます。

 

 監事は、理事の職務の執行を監査しますが(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)99条1項)、この場合、監査対象期間と自身が理事であった✕1年4月1日から✕1年6月26日までの期間が重なってしまいます。

 つまり、✕1年4月1日から✕1年6月26日まで理事であったわけですから、この期間については、自分で自分が行った理事としての職務の執行を監査するということになります。

 一般法65条2項は、監事が一般社団法人又はその子法人の理事又は使用人を兼ねることができないと規定していますが、これは監事の独立性を担保し、自己監査を防止することが目的です(一般・公益財団法人においても同じ(一般法177条))。

 

 従って、この期間については、いわゆる自己監査となってしまうので、監査を行うことはできないのではないのか、すなわち、横すべり監事は認められないのではないのか、という問題が生じるというわけです。

(2)会社法の判例

 そこで、会社法における横すべり監査役の論点を参考としますと、実は裁判所の判決では「違法とはいえない」として、横すべり監査役を許容しています(東京高裁昭和61年6月26日 最高裁が上告棄却(昭和62年4月21日))。

 

 理由としては、

 

(イ)会社法335条2項は会社または子会社の取締役・支配人その他の使用人を監査役に選任することを禁止していない

(ロ)会社法336条は監査役の任期と監査対象期間の一致を要求していないことから会社法335条2項には抵触しない

 

ということです(参考文献『リーガルマインド会社法』弥永真生(有斐閣))。

(なお、裁判所のHPで判決文を探したのですが見つかりませんでした。従って、判例六法(有斐閣)と『リーガルマインド会社法』を参考にして書いています。ご了承ください。)

 

 これを参考としますと、公益法人の横すべり監事についても、理事との兼任は禁止されていますが(一般法65条2項、177条)、(イ)のように、法人の理事・支配人その他の使用人を監事に選任することは禁止されていませんし、(ロ)のように監事の任期と監査対象期間の一致も要求されていません(一般法67条、177条)。

 

 そのため、私見ですが、公益法人においても横すべり監事は認められると考えられます。 

 従って、理事を退任して、すぐに監事に就任することは、法令上は問題はないと考えられます。

3.公益法人のガバナンスの観点

 しかしながら、なんとなく、もやもや感があるのも事実です。

 そこで、これもあくまで私見ですが、このような横すべり監事については、法令上は問題はないものの、ガバナンスの観点からするとなるべく控えるほうが望ましい、と考えます。

 

 そのためには、例えば、役員候補を選出する基準として「当法人の理事であった者が監事に就任する場合は、退任後1年以上の期間をあけるものとする。」といった規定を設けるということも一つの方法と考えられます。

 

 現在、内閣府では公益法人のガバナンス強化を策定中ですが、特に公益認定を受けた公益社団法人や公益財団法人は強いガバナンスが要求されますので、法人自身がガバナンスを損なうことがないよう、自らガバナンスの強化を行うことも必要であると思います。

4.おわりに

 法人によっては、例えば人材が見つからないといった理由から横すべり監事を選任せざるを得ないといったような場合もあるかもしれません。

 横すべり監事は、法令上は問題はないと考えられるものの、このような場合は、事前に行政庁(内閣府または都道府県)に相談して、確認をとられるほうがよいと思います。

 以上、参考としていただけますと幸いです。