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特定費用準備資金の活用法~専ら法人の責に帰すことができない事情により将来の収入が減少する場合

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 公益法人会計における特定費用準備資金は通常型と特例型がある。
  • 特例型は、専ら法人の責に帰すことができない事情により将来の収入が減少する場合について適用されるものである。
  • 特例型を適用するためには、行政庁に対して合理的な説明が必要であり、そのためには実効性の高いガバナンスの構築が求められる。
  • 特例型は、政策変更により補助金が削減される見込みが高くなった場合等での活用が想定される。
  • 新型コロナウイルス感染症に関する対策費用の増加で、財政状態が悪化している地方自治体もあり、そのようなところでは外郭団体系の公益法人は補助金を削減される可能性もある。

1.はじめに

 特定費用準備資金には、通常型と特例型があり、前回は通常型のうち将来の収入の減少が確実に見込まれる場合について説明しました。

 今回は、特定費用準備資金のうち特例型について記載します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.特定費用準備資金の特例型とは

 特定費用準備資金の特例型とは、将来的に収入の安定性が損なわれるおそれがあり、専ら法人の責に帰すことができない場合に該当する場に適用される特定費用準備資金を指します。

 

 公益法人の収入減少については、前回の説明のように、従来は通常型のうち「将来の収入の減少が確実に見込まれる場合」に係る特定費用準備資金の運用が行われてきました。 

 しかしながら、収入の減少については「専ら公益法人の責に帰すことができない事情により収入が減少する可能性もあり、このような場合については、従来の特定費用準備資金では十分に対応することができないという課題が生じて」いました(「平成29年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(内閣府 公益認定等委員会公益法人の会計に関する研究会))。

 

 そこで、特定費用準備資金の弾力化を図るため、このような収入の減少が生じる可能性がある場合においても、一定の要件により、特定費用準備資金の計上が認められることとなりました。なお、この特例型の特定費用準備資金は制度上、すでに適用されています。

3.適用要件

(1)計上要件

 この特例型の特定費用準備資金の計上要件は以下の通りです。

 

①公益法人が特定費用準備資金の積立要件を説明するに当たり、当該公益法人の責に帰すことができない事情により将来の収入減少が見込まれることについて、法人の理事会、評議員会又は社員総会、監事等の認識を踏まえた説明をすること

②当該積立額に相当する資金が必要となる理由の説明をすること

③当該積立の期間は最長で5年であり、その期間が合理的であること

 

(2)行政庁との対応

 この特例型の特定費用準備資金は、文字通り「特例」なので、行政庁への合理的な説明が求められます。

 

 具体的には、定費用準備資金の必須要件である目的、規模、期間のそれぞれについて、対応不能とした背景、経緯、事情等について、理事会、評議員会又は社員総会、監事等の認識を踏まえ説明を求める」とされています。

 また、「事業の安定性・継続性が損なわれる場合のデメリットについて、法人に具体的かつ明確な説明(可能な限り定量的に)を求める。」ともされています。

 

 さらに「現行の特定費用準備資金による緩和をさらに限定的に緩和する措置であるため、法人には毎事業年度末に結果報告を求める。」とされています。(以上、「平成29年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(内閣府 公益認定等委員会公益法人の会計に関する研究会)の【別添1】より)

 

 従って、公益法人の事務局は、毎事業年度末に行政庁に対して結果報告を行うことになります。

(3)実効性の高いガバナンスの構築が必要

 (2)に記載した説明を行うためには、ガバナンスが機能していることが必要です。

 実際に【別添1】では、従来型の特定費用準備資金で対応できないと主張する法人から、その理由に関してガバナンスを踏まえ、事業の安定性・継続性を中心に合理的な説明を求める、と記載されています。

 

 この特例型の特定費用準備資金は、将来の収入が減少する可能性が高いという、将来の見積りに基づいて計上されるものであり、主観性が高いものといえます。そのため、安易な特例型の特定費用準備資金を計上を認めると、恣意的にいくらでも計上することも可能となりますし、法人が努力しないで収支相償を満たすということもできてしまいます。

 

 従って、特例型の特定費用準備資金は、実効性の高いガバナンスのもとで計上することが必要となります。実効性の高いガバナンスを実現している企業では、意思決定の合理性が担保されているからです。(参考:「ガバナンスの強化が持続的成長と企業価値向上につながる理由」

4.想定される適用場面

 特例型の特定費用準備資金が想定される場面としては、「補助金等により事業を行っていた場合において、補助金等の削減が予想され、収入の減少が見込まれていることへの対応のための基金」が例としてあげられています(FAQ問Ⅴ-3-⑦より)。

 

 この補助金の削減ですが、この特例型の特定費用準備資金が導入されたときには、もちろん、新型コロナウイルス感染症は生じていませんでした。

 しかしながら、以前、「公益法人も「稼ぐ」必要がある理由」の中で記載したように、今回の新型コロナウイルス感染症の対策費用の増加で、地方自治体の中には相当の金額を支出したところもあると思います。そのため、地方自治体によっては、公益法人に対する補助金が削減される可能性も考えられます。

 従って、新型コロナウイルス感染症の発生が原因で、今後は、補助金の削減に備えた特例型の特定費用準備資金の活用が増える可能性はあると考えられます。

 

 また、私見ですが、専ら法人の責に帰すことができない事情により将来の収入が減少する場合としては、今回の新型コロナウイルス感染症の影響で、公益目的事業を縮小する可能性が高いといったケースも範疇に入る可能性があるのではないかと思いますが、この場合においても、合理的な説明が必要です。 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

 令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

 PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

 これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、J-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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