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NPB、日本プロスポーツ協会を脱退

公認会計士・税理士 森 智幸

1.NPB脱退の経緯

 一般社団法人日本野球機構(以下「NPB」)が、公益財団法人日本プロスポーツ協会から脱退しました。

 もともと、NPBは、令和元年9月に当協会から脱退することを決定していましたが(日本経済新聞2019年9月9日の記事参照)、同年12月の理事会で承認され、令和2年1月28日に通知したというものです。

 同協会のHPにも、「一般社団法人日本野球機構 退会について」という題名で、その内容が記載されています。

 脱退の理由ですが、マスコミの記事によると、(公財)日本プロスポーツ協会では長期にわたって評議員会が開催されないなど、組織運営やコンプライアンス面で問題があり、それを問題視したNPBが脱退を決定したとされています。

2.安倍晋三内閣総理大臣による勧告

怒り心頭

 では、実際はどうなのでしょうか?

 結論から申し上げますと、マスコミ記事の内容は正しいです。

 なぜ、正しいかと言い切れるのかというと、実は、令和元年11月22日に、安倍晋三内閣総理大臣から(公財)日本プロスポーツ協会に対して、「勧告書」が発出されていて、その中に評議員会が開催されていないことなど、同協会の問題点がはっきりと記載されているからです。

 この勧告書は、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」)28条①に基づいて出されるもので、簡単に言うと、公益法人に対する重大警告です。

 なお、安倍晋三内閣総理大臣の名前で勧告書が出されていますが、もちろん、安倍首相が公益法人の立入検査に携わっているわけではなく、内閣府が作成したものです。

 

 実は、この勧告書は誰でも見ることができます。

 その勧告書が掲載されているページはこちらです(「公益財団法人日本プロスポーツ協会に対する勧告について」

 それでは、その内容について見ていきたいと思います。 

3.勧告の内容

(1)評議員会の不開催

横浜スタジアム
横浜スタジアム(写真と本文は関係はありません)

 勧告書には6項目が記載されています。

 その1項目目に「理事の責任において、早急に、評議員会を開催するとともに、その承認を受けた上で平成29年度及び同30年度の計算書類を行政庁に提出すること」と記載されています。

 

 これを見てもわかるように、(公財)日本プロスポーツ協会では評議員会が開催されていなかったことがわかります。

 また、計算書類は評議員会の承認を受ける必要がありますが(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)199条、126条②)、評議員会が開催されていないということは、計算書類は評議員会の承認を受けていない、言ってみれば非公式のものとなります。従って、そのような計算書類は開示書類として開示することはできません。

 実際、(公財)日本プロスポーツ協会のHPを見ると、平成29年度と平成30年度の計算書類は開示されていません。

 

 ということは、事業報告等にかかる定期提出書類も提出していないし、作成もしていないということだと思います。

 これは公益法人として、行うべきことを行っていないため、公益法人のあり方として問題があります。

(2)評議員と理事の問題点

 勧告書は評議員と理事についても触れています。

 

 まず、評議員については、

 

「評議員会の規模の適正化を図り、その人選を見直すことなどにより、理事を牽制・監督するという評議員本来の役割を果たし得る体制を構築すること」

 

 と記載されています。

 勧告書は、まず評議員の規模の適正化について触れていますが、HPでみたところ22名います。

 私が関与した法人の中には、同程度の評議員数の公益財団法人もありましたので、数が多すぎるということでは必ずしもないと思いますが、おそらくここに触れた理由は、評議員の中に出席率が著しく低い者がいたためと推測します。

 実は、評議員数が多いと、全員が出席できる日が限られてしまいます。実際、前述した私が関与した公益財団法人でも、評議員が全員出席できた評議員会はありませんでした。

 そのため、評議員が全員出席できるよう、勧告書は規模の適正化に触れたのだと思います。

 

 人選の見直しに触れているのも同様に、評議員の自覚を持って評議員会に必ず出席できる人を選べ、ということでしょう。

 おそらく、今後は、出席率が低い評議員には辞めていただく処置がとられるものと推測されます。

 

 そもそも評議員は、理事に対し、評議員会の目的である事項及び招集の理由を示して、評議員会の招集を請求することができるという招集請求権があるのですから(一般法180条①)、評議員が開催されないのであれば、この招集請求権を行使すべきでした。それがほったらかしになっていたのですから、当法人の評議員は、評議員としての責務を果たしていなかったといわざるをえません。

 

 ちなみに、評議員や理事はいわゆる「充て職」になっている法人も多く見られます。観光協会など、外郭団体系になるとその傾向が強いです。そのため、評議員の役割を十分に知らずに就任してしまうケースも多く見られます。しかし、就任するからには、最低限の知識は身につけておくべきでしょう。

 

 次に、理事については、

 

「理事は、法令に基づく役割を十分に果たすこと」

 

 と記載されています。

 一言でさらっと書いていますが、おそらく内閣府としては言いたいことがありすぎて、個別に書いてしまうと書ききれなくなるので、このような書き方になったのだと思います。

 

 評議員会について述べると、評議員会は理事会で招集の決定を行い(一般法181条①)、理事が招集するのですから(一般法179条③)、理事は文字通り、法令に基づく役割を果たしていません。

 想像ですが、評議員会を開催しようと思ったものの、評議員がなかなか集まらず定足数を満たせないため、そのままほったらかしになったという可能性もあります。ちなみに同法人の定款25条①によると、「評議員会の決議は、決議について特別の利害関係を有する評議員を除く評議員の過半数が出席し、その過半数をもって行う。」となっています。過半数の12名も集まらなかったのでしょうか。

(3)NPBとの関係

 勧告書はNPBの脱退についても触れています。

 

 勧告書によると、

 「一般社団法人日本野球機構(以下「日本野球機構」という)が当該法人からの脱退の意思を表示していることを踏まえ、その脱退の通知(以下「脱退通知」という。)の取扱いについて、速やかに結論を出すこと。」

 「日本野球機構が脱退通知に当たって指摘した、当該法人の組織運営やコンプライアンス上の問題に対する説明責任を徹底するため、当該法人としての対応策を、ホームページで公表するなど対外的に表明すること。」

 と記載されています。

 

 NPBが脱退の意思を示したのが令和元年9月で、それが令和2年1月になってやっと脱退通知が出たという経緯と、この勧告書の文章をあわせて読むと、どうもNPBの脱退についてひと悶着があったものと推測します。

 

 (公財)日本プロスポーツ協会の定款を見ると、第7条に「この法人の加盟団体が脱退しようとするときは、その事由を付した脱退届を提出し、理事会の同意を得なければならない。」と記載されています。

 

 理事会が開催されたは令和元年12月ということです。

 この勧告書がでたのが令和元年11月ですから、おそらく勧告書で指摘され、やっと理事会を開催して脱退同意の決議を行ったのだと思います。

 その間、(公財)日本プロスポーツ協会はNPBの脱退を認めようとしなかったのでしょう。

 

 何故、脱退を認めなかったのかを推測すると、おそらく(公財)日本プロスポーツ協会としてはNPBに出ていかれると、協会の体をなさなくなってしまうからだと思います。今でこそ、日本にはいろいろな種類のプロスポーツがありますが、戦後、日本のプロスポーツといえばプロ野球でした。今でも、プロスポーツの中でも野球は別格です。

 そのNPBがいなくなっては、(公財)日本プロスポーツ協会としては、存在意義がないのも同然です。

 そこで、定款7条を盾にして、なかなか脱退を認めなかったのでしょう。その結果、NPBと(公財)日本プロスポーツ協会とが揉めに揉めて、さらにNPBは内閣府に報告し、内閣府が勧告した、という経緯ではないでしょうか。 

4.最後に

 現在でも評議員会を開催しないという公益法人があるとは驚きです。

 評議員、理事、監事は非常勤が多く、公益法人に関する法律を知らない人も多いため、実務上は事務局が運営実務を行っているという公益法人が多いと思われます。

 しかし、事務局が機能していないような公益法人は、公益法人制度に詳しい公認会計士・税理士などとコンサルティング契約を締結するというのも一つの方法です。

 当事務所では、会計・税務の他、機関運営に関するアドバイスなど総合的なコンサルティングを実施しています。

 何かお悩みのことがあれば、ご連絡いただければ対応いたします。