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公益法人の計算書類でよくあるミス5選とその対策

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 正味財産増減計算書や貸借対照表の科目が現行制度に基づいていないケースがある。
  • 貸借対照表内の数値や、正味財産増減計算書と貸借対照表間の数値が整合していないケースがある。
  • 計算書類はエクセルなどの表計算ソフトではなく、会計ソフトから直接、作成するべきである。

はじめに

 公益社団法人および公益財団法人(以下「公益法人」といいます)は、「公益法人会計基準」に基づいて計算書類を作成する必要があります。そして、その計算書類の具体的な表示方法については「「公益法人会計基準」の運用指針」において様式が定められています。

 今回は、公益法人が作成する計算書類に関する表示について、誤りやすい事例5つを紹介します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

【目次】

このブログを書いた人

公認会計士・税理士 森 智幸

慶應義塾大学商学部卒。2019年に独立開業。企業の内部統制の強化、内部監査のコソーシングなどガバナンス強化を専門としている。また、公益法人会計は10年以上の実績があり、会計・税務に加えて、法制度にも詳しい。

PwC Japan有限責任監査法人では、国内・海外の企業のガバナンス強化支援などに携わる。

これまで、上場会社の財務諸表監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、法人税・消費税の税務などを行う。

主な著作は『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』(中央経済社)。『税務弘報』(中央経済社)、月刊『企業実務』(日本実業出版社)などの雑誌への寄稿も多数。


1.誤りやすい事例5選

①他会計振替前当期一般正味財産増減額が記載されていない

 収益事業等を行っている場合、正味財産増減計算書内訳表には「他会計振替前当期一般正味財産増減額」を掲記する必要があります。(下記【図表1】参照)

 これは、この科目がないと、他会計振替額の直前における一般正味財産の増減額が集計されて表示されないため、他会計振替額の蓋然性を直ちに確認できないためです(FAQ問Ⅵ‐4‐⑦)。(下記【図表1】参照)

 古いバージョンの会計ソフトを使い続けている場合や表計算ソフトを使って手作業で作成している場合、この「他会計振替前当期一般正味財産増減額」が掲記されていないことがよく見られるので注意が必要です。

 なお、これは日本公認会計士協会から内閣府公益認定等委員会に依頼があり、平成30年(2018年)6月の運用指針の改正で設けられたものです。

 

【図表1】

内閣府FAQ問Ⅵ‐4‐⑦に基づいて作成
正味財産増減計算書内訳表の例

②法人税等が記載されていない

 法人税法上の収益事業を行っている場合、法人税等が発生しますが、「法人税、住民税及び事業税」は、「税引前当期一般正味財産増減額」の後に記載します。(上記【図表1】参照)

 この法人税、住民税及び事業税を「租税公課」で処理しているケースが見受けられますが、これらは「法人税、住民税及び事業税」勘定で処理します。

 租税公課で処理すると、公益目的事業比率が正しく計算されなくなるので、注意が必要です。

 

③基本財産・特定財産への充当額が不一致

 貸借対照表の「Ⅲ正味財産の部」には「1.指定正味財産」と「2.一般正味財産」に、それぞれの合計額を記載する行がありますが、その下には基本財産と特定財産への充当額を記載する行があります。

 この充当額の合計は、それぞれ、資産の部の基本財産と特定財産の合計額と一致する必要があります。なお引当金で充当するもの(退職給付引当金など)は、合計額の計算から除かれます。

 このあたりは、表計算ソフトを使って手作業で計算書類を作成している場合は、誤りやすい点です。では、会計ソフトで直接、計算書類を作成している場合は大丈夫かというと、必ずしもそうではありません。会計ソフトでも、ちゃんと反映できていないケースがあります。

 これらは、一致する必要があるため、手作業で検算して確かめるようにしましょう。

 

貸借対照表の「Ⅲ正味財産の部」の例
貸借対照表の「Ⅲ正味財産の部」の例

④正味財産増減計算書と貸借対照表が不整合

 正味財産増減計算書の「Ⅰ正味財産増減の部」の末尾にある「一般正味財産期末残高」、「Ⅱ指定正味財産増減の部」の末尾にある「指定正味財産期末残高」、「Ⅲ正味財産期末残高」は、それぞれ貸借対照表の「一般正味財産合計」、「指定正味財産合計」、「正味財産合計」と一致する必要があります。

 複式簿記による会計処理であれば、通常は一致しますが、時々、これらの金額が不整合となっているケースがあります。特に、表計算ソフトを使って手作業で作成している場合は、計上漏れなどにより、整合しないことがあるので注意が必要です。

 また、会計ソフトで直接、計算書類を作成している場合も、必ずチェックする必要があります。

 

⑤1年以内返済予定長期借入金が計上されていない

 長期借入金がある法人の場合、貸借対照表日から1年以内に返済が予定されている部分の金額は「1年以内返済予定長期借入金」として、流動負債に計上する必要があります。(「「公益法人会計基準」の運用指針」12(1)参照」)

 この振替を失念してしまい、長期借入金の残額の全てを固定負債に計上すると、流動負債と固定負債の残高が適正な金額とならないので注意が必要です。

 金融機関から借入をしている場合、返済予定表があるはずなので、その返済予定表に基づいて、1年以内に返済予定の金額を集計すれば、1年以内返済予定長期借入金の額を計算することができます。

 

2.おわりに

 計算書類の表示も適正なものでないと、利害関係者が意思決定を誤ってしまうリスクがあります。そのため、表示についても、制度に基づいて正確に行う必要があります。

 私の経験上、日常の会計処理は会計ソフトを使用しているものの、計算書類の作成については、表計算ソフト(エクセルなど)を使っている法人は、表示の誤りが多いという印象があります。

 

 しかしながら、拙著『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』(中央経済社)「52  決算書は会計ソフトから直接作成する」で記載したように、計算書類は会計ソフトの機能を使用して、直接作成するべきです。

 なぜかというと、表計算ソフトで作成すると、転記ミスが発生するリスクが高まりますし、また、1①②で紹介したような制度の改正があった場合にも、改正内容を反映することを失念するリスクがあるためです。その結果、計算書類の表示ミスの発生可能性が高まってしまうのです。

 

 ただし、会計ソフトであっても、会計ソフト会社によってレベルが違うので、自分で検算することも必要です。私の経験では、貸借対照表の貸借が不一致であるにもかかわらず、エラー表示が出てこなかった会計ソフトがありました。

 したがって、計算書類も会計ソフトで直接作成するほうがよいですが、会計ソフトも絶対的なものではないので、ITと手作業のハイブリッドで進めることが必要です。

 今回のブログが皆様の実務の参考になりましたら幸いです。

 


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