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賞与引当金の必要性と計上対象|公益法人

KEY POINTS

  • 公益法人会計においては、引当金の計上要件を満たす場合は引当金を計上する必要がある。
  • 翌事業年度に支給する賞与の支給見込額のうち、支給対象期間が当事業年度に帰属する部分については、賞与引当金を計上する必要がある。
  • 外郭団体系の公益法人では、「期末手当」、「勤勉手当」といった呼び方をすることがあるが、名称に関係なく、賞与の性質をもっているものは賞与引当金の計上対象となるので注意が必要である。

1.はじめに

 公益法人会計の適用対象となる公益社団法人、公益財団法人、移行法人等は、引当金の計上要件を満たす場合は、引当金を計上する必要があります。

 今回は、賞与にかかる賞与引当金の計上における注意点について説明します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

2.賞与引当金のしくみ

 まず、引当金の計上要件となる4要件は以下の通りです。

  • 将来の特定の費用又は損失であること
  • その発生が当期以前の事象に起因していること
  • その発生可能性が高いこと
  • 金額を合理的に見積もることができること

 この4つの要件を満たす場合は、引当金を計上する必要があります。

 

 これを賞与について見てみると、翌事業年度に支給する賞与は将来の特定の費用であり、また、賞与は職員等の労働の提供の対価であることから当期以前の事象に起因しています。そして、賞与の支給は給与規程等に基づいて定められていることから、その発生可能性は高く、さらに賞与の予定額も給与規程等に基づき、合理的に見積もることができます。

 

 したがって、翌事業年度に支給する賞与の支給見込額のうち、支給対象期間が当事業年度に帰属する部分については、引当金の計上要件を満たしているため、賞与引当金を計上する必要があります。

 賞与引当金を計上すべきなのに、計上していない場合は立入検査で指摘事項となる可能性があるので注意する必要があります。

 

3.「期末手当」「勤勉手当」も賞与引当金の対象

 ここで重要な点は、賞与の性質を持つ手当・支給は賞与引当金の計上対象となり、その名称は関係はないということです。

 特に外郭団体系の公益法人においては、賞与について「期末手当」、「勤勉手当」という呼び方をしている法人がありますが、これらも賞与の性質をもつものなので、賞与引当金の計上対象となる点に注意する必要があります。

 

 私の経験では、外郭団体系の公益法人でこのようなことがありました。

 その公益法人では、賞与引当金が計上されていなかったので「賞与はないのですか?」とたずねると「はい、賞与はありません。」という回答が返ってきました。

 

 賞与がないのは珍しいなと思い、続けて「ということは、給料は毎月、同じ額が12ヶ月支払われているのですか? 6月や12月に別途支給は出ないのですか?」とたずねると「いえ、うちは6月と12月に『期末手当』と『勤勉手当』が出ています。」ということでした。

 

 そこで「それは賞与ですね。したがって賞与引当金の計上が必要です。」とお伝えし、賞与引当金を計上していただくことになりました。

 

 ちなみに、「期末手当」、「勤勉手当」は公務員のボーナスの呼び方ということです。

 

4.おわりに

 今回は賞与引当金の計上の必要性がテーマだったので、会計処理については割愛しました。

 なお、税務上は、収益事業会計における賞与引当金は全額が否認されます。そして、賞与が支給されて、賞与引当金が取り崩されたら、会計上の簿価と税務上の簿価との差額がなくなるので、前期に否認した賞与引当金は認容減算されます。

 賞与引当金については、発生主義会計において収益と費用を期間的に対応するために、また、翌事業年度における経済的な負担を示すためにも、その計上が必要となります。

 今回のブログが実務の参考になりましたら幸いです。

 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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