公認会計士・税理士 森 智幸
1.はじめに
少し前になりますが、令和4年(2022年)12月9日に国税庁は「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」を公表しました。
これはインボイス制度に対応するため、例えば、自社のレジシステム、受発注システム、経理システムのプログラムについて修正を行う場合、その修正に要する費用を修繕費として取り扱うことの可否について解説したものです。
今回は、この国税庁の解説文についてまとめたいと思います。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.システムの修正費用
この解説文はQ&A方式になっており、まず質問内容はおおむね以下の内容となっています。(ゴシック、色つけは筆者。以下同じ。)
- 適格請求書発行事業者がインボイス制度に対応するため、自社の固定資産であるPOSのレジシステム、商品の受発注システム及び経理システムのプログラムにつき、修正を外部に委託して行う。修正内容は以下の2点である。
- ①現行の請求書等のフォーマットに登録番号、軽減税率の対象品目である場合はその旨、税率ごとに合計した対価の額(税抜き又は税込み)、適用税率及び消費税額等を追加する
- ②積上げ計算方式による仕入税額の計算に対応するため、集計方法などの税額計算の要素につきインボイス制度に対応する仕様変更等
- この①②に要する費用は修繕費(損金算入)として取り扱ってよいか?
これに対して、国税庁は、
「ご照会のような修正は、インボイス制度の実施に伴い、現在使用しているソフトウエアの効用を維持するために必要な変更を施すものに過ぎず、新たな機能の追加、機能の向上等には該当しませんので、その修正に要する費用は修繕費に該当します。」
と回答しています。
3.修繕費に該当しないケース
一方で、以下のようなシステムのプログラムの修正は、現状の効用の維持等に該当しないため、修正に要する費用は修繕費には該当しないとされています。
すなわち、資本的支出となり、無形固定資産(ソフトウェア)として処理することとなります。
- 受発注システム上で受領し、又は取り込んだ請求書に記載された取引先の登録番号と国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトに公表されている情報を自動で照合し、確認する機能を新たに搭載するもの
- これまでシステムで作成した請求書等を紙媒体で出力し交付していたものを、電子交付まで自動で行えるよう仕様変更するもの
請求書をスキャンして、取引先の登録番号と公表サイトに公表されている情報を自動照合するというシステムは、実際に開発されているようです。
現在、国税庁の例示は上記2つですが、いままでに見たことがないシステムであれば、おおむね、新たな機能の追加、機能の向上等に該当すると見てよいかと思います。
4.資本的支出だが修繕費にできるケース
ただし、上記3のケースであっても、以下の場合であれば修繕費として取り扱うことができます。これは現状の基本通達に基づくものです。
(1)少額のケース
修正に要した費用の額が20万円に満たない場合は、新たな機能の追加、機能の向上等である場合であっても修繕費として取り扱うことができます(基本通達7-8-3)。
(2)形式基準によるケース
システムの修正に要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合に、その金額が次のいずれかに該当するときは、修繕費として損金経理することができます(基本通達7-8-4)。
- その金額が60万円に満たない場合
- その金額が、修正に係るソフトウエアの前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
4.おわりに
インボイス制度の導入にあたり、販売管理システム、会計システムもバージョンアップを行う会社等は多いと思います。
聞いている限りでは、有料のバージョンアップの見積りをとってみると結構な金額となるケースもあるようです。
金額が大きい場合、修繕費になるか資本的支出としてソフトウェア勘定となるかで、営業損益の額や法人税の金額も変わってきますので、見積もりの段階で、どちらの処理になるかもよく検討するのがよいと思います。
今回の記事が実務の参考になりましたら幸いです。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。
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