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【対話式】外貨建満期保有目的債券の会計処理の留意点|公益法人のポイントをわかりやすく解説

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 取得原価または償却原価の換算には決算時の為替レートを使用する。
  • 償却額の換算には期中平均レートを使用する。
  • 外貨建満期保有目的の債券は原価評価するので、決算時の為替レートで円換算した金額と前期末の円建の帳簿価額との差額は為替差損益となる。

はじめに

 今回も、対話式で、公益社団法人および公益財団法人(以下「公益法人」)が保有する外貨建満期保有目的債券の決算時の会計処理と表示に関する留意点を書いてみました。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。


【登場人物】

  • 中堂所長 公認会計士・税理士。京都五条通監査法人の所長。
  • 粟田さん 公認会計士試験合格者。京都五条通監査法人の職員。

(登場人物、事務所名は架空のものです)


1.発生する換算差額の種類と表示

粟田さん

「公益法人においても、外貨建の満期保有目的債券を保有する法人が増えてきています。公益法人の場合の計算方法について、企業会計と何か異なるところはあるのでしょうか?」

中堂所長

「いや、特に異なる点はない。満期保有目的の債券については、外国通貨による償却原価または取得原価に決算時の為替レートを乗じて円換算額を計算するので、企業会計の場合と同様だ。償却原価法を適用している場合の償却額を期中平均レートで計算する点も同様だ。」

粟田さん

満期保有目的債券は原価評価ですから、このときに生じる差額は為替差損益となるわけですね。この為替差損益の表示は、「【対話式】為替差損益の表示に関する留意点~公益法人|円安の影響」で話したときと同じですか?」

中堂所長

「そのとおりだ。一般正味財産を財源として保有する外貨建満期保有目的債券に係る為替差損益は「経常増減の部」の為替差損益として処理し、指定正味財産を財源として保有する外貨建満期保有目的債券に係る為替差損益は「指定正味財産増減の部」の為替差損益として処理する。表示科目は、基本財産評価損益等、特定資産評価損益等といったように、財産の種類に基づくことになるね。」

 

2.使用するレート

中堂所長

「外貨建の満期保有目的債券の決算処理をするときは、使用する為替レートが複数あるので経理担当者が計算を誤るリスクがある。特に法人が初めて外貨建満期保有目的債券を保有した初年度は経理担当者が慣れていないので要注意だ。監査やアドバイザリー業務を行うときは、その点に注意する必要がある。」

粟田さん

「わかりました。為替レートについては整理すると、このようになります。」

  • 取得原価または償却原価・・・決算時の為替レート
  • 償却額・・・期中平均レート

 

3.計算例による解説

 ここでは、計算例を用いて解説します。

  • 公益財団法人A協会(3月決算)は、X1年4月1日に、同日発行のB国の外貨建国債を95米ドルで取得した。なお、この国債は、利息を公益目的の甲事業の財源とするため特定資産とした。また、一般正味財産を財源として保有するものとする。
  • 取得時の直物為替レートは1米ドル=100円であった。
  • この債券については満期保有目的の要件を満たしている。
  • 取得価額と額面の差額は、全て金利調整差額であるため、償却原価法を適用する。なお計算方法は定額法とする。
  • 利息は月割計算とする。
  • 源泉所得税は所得税法第11条第1項に基づき非課税とする。
  • B国国債の内容は以下の通りである。

   額面:100米ドル

   満期:X6年3月31日

   クーポン利率:5%

   利払日:毎年6月末日及び12月末日

 

X1年6月30日(利払日) 112円
X1年12月31日(利払日) 130円
X2年3月31日(決算日) 152円
X1年4月1日~X2年3月31日(期中平均相場) 132円

(1)X1年4月1日(取得日)

(借方)投資有価証券 9,500 (貸方)普通預金 9,500

 取得時は、取得価額95米ドル✕取得時の為替レート1米ドル100円/米ドル=9,500円となります。

 

(2)6月の利払日

(借方)現金預金 140 (貸方)有価証券利息 140

 

 まず、外貨建の利息額は100米ドル✕5%✕3月/12月=1.25米ドルとなります。(4月1日から6月末日までの3ヶ月間の月割計算であるため)(注:実務では日割計算をします。)

 これを円貨建に換算します。計算式は、1.25米ドル✕112円/米ドル=140円です。

(単純化のため、利払い日に入金があったものとします。)

 

(3)12月の利払日

(借方)現金預金 325 (貸方)有価証券利息 325

 

 まず、外貨建の利息額は100米ドル✕5%✕6月/12月=2.5米ドルとなります。(7月1日~12月31日までの6ヶ月間の月割計算であるため)

 これを円貨建に換算します。計算式は、2.5米ドル✕130円/米ドル=325円です。

 

(4)X2年3月31日(期末時)

①未収利息の計算

(借方)未収利息 190 (貸方)有価証券利息 190

 

 X2年1月1日~X2年3月31日までの3ヶ月分が未収利息となります。計算式は、外貨建の利息額が、額面100米ドル✕5%✕3月/12月=1.25米ドルとなります。

 これを円換算すると、1.25米ドル✕152円/米ドル=190円となります。(本来は、有価証券利息は期中平均レートで計算すべきですが、計算の便宜上、未収利息の金額と一致させています。)

 

②償却額の計算

(借方)投資有価証券 132 (貸方)有価証券利息 132

 

 まず、償却額を外貨建で計算します。

 債権の取得差額は100-95=5米ドルです。

 この5米ドルについて、X1年4月1日からX6年3月31日まで定額法で計算するので、X1年4月1日からX2年3月31日については、5米ドル✕12月/60月=1米ドルとなります。

 

 次に、この償却額1米ドルを円換算します。

 償却額については期中平均レートを使用するので、1米ドル✕132円/米ドル=132円となります。

 

③為替差損益の計算

(借方)投資有価証券 4,960 (借方)為替差損益 4,960

 

 まず、償却原価法適用後による償却原価額を外貨建で計算します。

 外貨建では、取得原価95米ドル+償却原価1米ドル=96米ドルです。

 

 次に、これを円換算します。

 償却原価額は期末レートを使用するので、96米ドル✕152円/米ドル=14,592円となります。

 取得時の取得価額は円建では9,500円であり、これに②の償却額132円を加算した9,632円が期末の帳簿価額となります。

 したがって、差額の14,592円-9,632円=4,960円が為替差損益となります。

 

4.為替差損益の計算の流れ

中堂所長

「外貨建の満期保有目的の債券は、まず外貨ベースで計算し、それを円換算するという流れだが、頭で理解したつもりでも、いざ計算となると混乱しやすい。したがって、スプレッドシートで算出するときは、どのセルに、どの為替レートを入力するのかという点を、誰が見ても分かるようにしておく必要があるね。」

粟田さん

「参考に、償却額と償却原価額の計算について、為替レートとの関係を図にしてみました。」

【図1】

外貨建満期保有目的債券の円換算の過程を表した図

中堂所長

「この為替差損益は、一般正味財産を充当した特定資産に係るものだから、経常増減の部において、特定資産評価損益等として表示することになるので表示についても注意しておいてほしい。」

 

5.おわりに

粟田さん

「何年も続けて為替差損益の金額を誤ると、過去の収支相償の計算も修正しなければならなくなるので、大きな問題となりますね。」

中堂所長

「外貨建の満期保有目的債券の計算は複雑になるので、決算整理のときも仕訳を丁寧に計上し、計算過程もしっかりと残すとよいだろう。この論点は実務でも誤りやすいので、時間をかけて行う必要があるね。」

 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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