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満期保有目的の債券②~満期前に売却した場合の留意点|公益法人・一般法人

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 満期保有目的の債券を満期前に売却した場合、残りの債券全てについて保有目的があったものとして、満期保有目的の債券並びに子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券に振り替えなければならない。
  • また、この場合、売却事業年度を含む2事業年度は、取得した債券を満期保有目的の債券に分類することはできない。
  • 満期保有目的の債券並びに子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券に振り替えた残りの債券は市場価格がある場合は時価評価することになる。
  • 公益法人会計では、時価評価差額は、当期の正味財産増減額となり、正味財産増減計算書に評価損益として計上することになる。これらの債券が公益目的保有財産の場合、公益目的事業会計の評価損益として計上することになり、収支相償の計算要素となることから、注意が必要である。

1.はじめに

 満期保有目的の債券は、取得時において満期まで保有する意思をもって取得したものなので、満期まで保有する必要があります。

 もし、満期保有目的の債券に分類した債券を償還期限前に売却してしまった場合は、満期まで保有する意思を反故にしたわけですから、会計制度上はペナルティ的な会計処理を行うことを求めています。

 今回は、この満期保有目的の債券を満期前に売却してしまった場合の会計処理について説明します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

2.満期保有目的の債券を満期前に売却した場合の会計処理

(1)残りの債券全ての保有目的の変更

 満期保有目的の債券に分類された債券について、その一部を売買目的有価証券又はその他有価証券に振り替えたり、償還期限前に売却を行ったりした場合には、満期保有目的の債券に分類された残り全ての債券について、保有目的の変更があったものとして売買目的有価証券又はその他有価証券に振り替えなければなりません(日本公認会計士協会「公益法人会計基準に関する実務指針」(以下「実務指針」)Q34)。

 

 これは、残り全ての債券が対象となりますので注意が必要です。

 すなわち、残り全ての債券を売買目的有価証券又はその他有価証券に振り替えることになります。なお、公益法人会計では「売買目的有価証券又はその他有価証券」は、「満期保有目的の債券並びに子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券」となります。

 

(2)2事業年度は満期保有目的の債券への分類は不可

 また、これに加えて、保有目的の変更を行った事業年度を含む2事業年度においては、取得した債券を満期保有目的の債券に分類することはできなくなります(実務指針Q34)。

 

 すなわち、仮に、保有目的の変更を行った事業年度を含む2事業年度において、債券を取得し、理事会で償還期限まで保有すると決議したとしても、その債券は満期保有目的の債券として計上することは認められません。

 

 そのため、保有目的の変更を行った事業年度を含む2事業年度が終了した後でも、その債権は満期保有目的の債券とは認められません。

 満期保有目的の要件は取得時点に備えていることが必要ですが、この期間においては満期保有目的の債券に分類することはできないとされていますので、取得時点で満期保有目的の要件を満たすことはできないためです。

 したがって、この2事業年度が終了した後に、その債券を満期保有目的の債券に振り替えることはできませんので注意が必要です。

 

(3)会計処理

①売却した債券

 このように満期保有目的の債券は、償還期限前に売却することは想定されていませんが(以下3の例外のケースを除く)、もし売却してしまった場合は、売却価額と売却時の償却原価との差額を当期の売却損益に計上することになります「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品会計実務指針」)71。)

 設例と仕訳は以下の通りとなります。

【設例】

(1)償還年数10年の債券100,000千円(額面)を、✕1年期首の発行時に95,000千円で満期保有目的の債券として取得した。額面と取得価額との差額は金利の調整と認められ、定額法を適用することとした。利息は無視することとする。(仕訳の単位は千円)

 

(借方)投資有価証券 95,000 (貸方)現金預金 95,000

 

(2)しかしながら、✕7年末においてこの債券を97,000で売却することになった。

(イ)✕1年から✕7年までの償却原価法による利息の額

((100,000-95,000)÷10年)×7年=3,500千円

→投資有価証券の帳簿価額は95,000+3,500=98,500千円

 

(ロ)仕訳

 (借方)現金預金       97,000 (貸方)投資有価証券 98,500

     投資有価証券売却損 1,500

②残りの債券

 残りの債券は、全て保有目的の変更があったものとして売買目的有価証券又はその他有価

証券に振り替えなければなりません。したがって市場価格がある場合は時価評価することになります(公益法人会計基準第2 3(3))。

 なお、時価評価した場合の評価差額は、公益法人会計の場合は正味財産計算書において当期の正味財産増減額、すなわち、損益として計上します公益法人会計基準注解10)。企業会計では原則として評価差額として処理しますが(金融商品会計基準第18項、第77~79項)、公益法人会計では正味財産計算書に直接計上しますのでご留意ください(実務指針Q36、公益法人会計基準注解10)。

【設例2】

 【設例1】のとおり、満期保有目的の債券を売却したので、残りの5年満期の債券100,000千円(額面)をその他有価証券に区分し、期末時に時価評価することとした。

 この5年満期の債券は✕6年期首に、満期保有目的の債券として98,000千円で取得したものである。資産区分は特定資産として区分した。額面と取得価額との差額は金利の調整と認められ、定額法を適用することとした。利息は無視することとする。(仕訳の単位は千円)

 

(1)✕6年から✕7年までの償却原価法による利息の額

((100,000-98,000)÷5年)×2年=800千円

→投資有価証券の帳簿価額は98,000+800=98,800千円

 

(2)✕7年末のこの債券の時価は100,100千円であった。

100,100-98,800=1,300千円

 

(借方)投資有価証券 1,300 (貸方)特定資産評価損益等 1,300

 

 このように、時価評価によって計上した特定資産の評価損益は一般正味財産計算書の経常増減の部において、評価損益等調整前当期経常増減額の下に「特定資産評価損益等」として計上します。(基本財産の評価損益は「基本財産評価損益等」、基本財産や特定資産ではない場合は「投資有価証券評価損益等」として計上します。)

 したがって、このような評価損益は、保有する債券が公益目的保有財産の場合、収支相償の計算の要素となります。

 正味財産計算書の表示は以下の通りとなります。

 

経常費用計  
評価損益等調整前当期経常増減額  
基本財産評価損益等  
特定資産評価損益等 1,300
投資有価証券評価損益等  
評価損益等計  
当期経常増減額  

3.例外が認められる場合

(1)保有し続けると損失等が発生してしまうケース

 一部の債券について、以下のような状況が生じた場合又は生ずると合理的に見込まれる場合には、当該債券を保有し続けることによる損失又は不利益を回避するため、一部の満期保有目的の債券を他の保有目的区分に振り替えたり、償還期限前に売却しても、残りの満期保有目的の債券について、満期まで保有する意思を変更したものとはしないとされています。

 したがって、この場合は、これらの債券を売買目的有価証券又はその他有価証券へ振り替える必要はないとされています(実務指針Q34、金融商品会計実務指針第83項)。

 

①債券の発行者の信用状態の著しい悪化

②税法上の優遇措置の廃止

③法令の改正又は規制の廃止

④監督官庁の規制・指導

⑤自己資本比率等を算定する上で使用するリスクウェイトの変更

⑥その他、予期できなかった売却又は保有目的の変更をせざるを得ない、保有者に起因しない事象の発生

 

 例えば、「1.債券の発行者の信用状態の著しい悪化」のケースは、取得時は債券発行者の信用状態については問題はなかったものの、現在のような新型コロナウイルス感染症の拡大、ロシアによるウクライナ侵略、急激な円安といった環境の急激な変化によって、会社の財政状態も急激に悪化してしまい、信用状態が著しく悪化するようなケースが想定されます。

 このような場合は、デフォルトになる可能性があり、元本も戻ってこない可能性もあるので、その債券を保有し続けると損失が発生してしまう可能性があります。

 したがって、こういった想定外のケースでは、償還期限前に売却しても、残りの債券を売買目的有価証券又はその他有価証券へ振り替える必要はないとされています。

 

(2)満期償還金額とほぼ同額となるケース

 以下のようなケースにおいて売却した場合には、売却価額が満期償還金額とほぼ同額となるため、満期の到来に基づく償還とすることができるとされています(実務指針Q34、金融商品会計実務指針第282項)。

 

①債券の売却が満期日に極めて近い時点で行われていること

②割賦償還等により取得時の元本のうちの大部分が償還された銘柄について、残りの債券を売却すること

 

 これらのケースは、具体的な期間や割合が実務指針に記載されていないので、安易に適用することは避けるほうがよいと考えられます。

 1のケースは「満期日に極めて近い時点」とされていますが、「極めて近い時点」とは具体的にいつなのかという点までは記載されていません。常識的には、満期前1か月以内であれば「極めて近い時点」といえると考えられますが、これは安易に拡大解釈すべきではないと思います。

 

4.おわりに

 満期保有目的の債券を満期前に売却したり、保有区分の変更をしたりすると、残りの債券を満期保有目的の債券としていても、それが認められなくなるなど、非常に厳しい会計制度が設けられています。

 したがって、満期保有目的の債券を保有した場合は、安易な売却は行わないように十分注意する必要があります。特に、公益法人の場合は、債券を時価評価した場合、正味財産増減計算書に時価評価差額が直接損益に計上されますので、評価益が発生した場合は、収支相償に大きな影響を与えてしまいます。

 この評価益は、キャッシュ・フローを伴うものではありませんので、もし収支相償を満たさず剰余金が発生した場合、収支相償を満たすために資金を使うと、資金繰りに影響が出る可能性もあります。

 今回のブログが実務の参考になりましたら幸いです。

 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部ではガバナンスに関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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