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満期保有目的の債券①~計上要件と注意点|公益法人・一般法人

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 債券は原則として時価評価するが、満期保有目的の債券については例外として取得原価で評価する。
  • 満期保有目的の債券と認められるためには、①償還期限まで所有するという積極的な意思があること、および②その能力に基づいて保有する、という2つの要件を満たす必要がある。
  • 満期保有目的の債券への計上は、取得時においてのみ決定が可能であり、取得後に理事会決議を行っても、その計上は認められない。
  • 満期保有目的の債券と認められない場合は、時価評価となり、評価益が生じた場合は収支相償の計算要素となるので注意が必要である。

1.はじめに

 公益法人や一般法人のうち、特に公益財団法人や一般財団法人では、満期保有目的の債券を保有している法人が多く見られます。

 債券については、市場価格があるものについては、時価をもって貸借対照表価額とすることが原則ですが、満期保有目的の債券については取得価額をもって貸借対照表価額とするとされています(公益法人会計基準第2 3(3))。

 今回は、この満期保有目的の債券の計上要件と注意点について記載します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

2.満期保有目的の債券の計上要件とは

(1)取得時に理事会決議を経ること

①保有期間を明確に定める

 満期保有目的の債券とは満期まで所有する意思をもって保有する社債その他の債券をいいます(公益法人会計基準第2 3(3))。

 したがって、計上要件は「満期まで所有する意思を持つ」ということとなります。

 それでは、「満期まで所有する意思を持つ」とは具体的にはどのようなことをいうのでしょうか?

 

 この点については日本公認会計士協会による「公益法人会計基準に関する実務指針」(以下「実務指針」)のQ33に説明が記載されています。(なお、この説明は、日本公認会計士協会「金融商品会計に関する実務指針」69の説明と同様となります。)

 実務指針に基づくと、満期まで所有する意思をもって保有するとは、法人が償還期限まで所有するという積極的な意思とその能力に基づいて保有することをいいます。

 

 では、このような積極的な意思とその能力はどのように示せばよいのでしょうか? 

 その方策としては、理事会で保有期間を定めて、決議することです。具体的には、取得日を定め、保有期間を取得日から償還期限までとすることが必要です。

 

 逆に言いますと、この理事会の決議がないと、償還期間まで所有するという積極的な意思はなかったとみなされます。この点は要注意です。

 

 実務指針でも、保有期間が漠然と長期であると想定し保有期間を、あらかじめ決めていない場合は満期まで所有する意思があるとは認められないとされています。

  なお、さらに社員総会または評議員会の決議も要する旨を資産運用規程に定めている場合は、社員総会または評議員会の決議も必要です。

 

 満期保有目的の債券は、このように取得時において意思決定する必要があり、取得後に満期保有目的の債券と分類することはできませんので、この点も注意が必要です。

 たとえば、債券取得時にこのような理事会決議を行っておらず、取得後数年後に、償還期限まで保有するという理事会決議を行っても、満期保有目的の債券への変更は認められないということです。

 

②格付けの高い債券を取得する

 また、実務指針では、市場金利や為替相場の変動等の将来の不確定要因の発生いかんによっては売却が予測される場合には、満期まで所有する意思があるとは認められないともされています。

 

 この要件は実務上はなかなか難しいものですが、これは(イ)格付けが極めて低い、いわゆるジャンク債や(ロ)経済や政情が不安定な国が発行する国債などが想定されます。

 このような債券は、通常金利が高いですが、デフォルトとなる可能性が高い傾向があります。

 そのため、このような債券を保有したとしても、デフォルトの噂が流れると、普通はその債券を売却します。デフォルトになってしまうと、元本すら戻ってこなくなる可能性があるからです。

 したがって、このような債券の場合は、満期まで保有すると意思決定したとしても、途中で売却する可能性があるので、償還期間まで保有するとは認められないこととなります。

 

 このようなことを防止するためには、債券を取得するにあたって、例えばシングルA以上、といったように格付け会社の格付けを取得の要件として、資産運用規程で定めておくことが考えられます。

 もちろん、理事会の決議においても、それを確認した上で決議します。

 

③理事会議事録に記載がなければ認められない

 このように、満期保有目的の債券を取得するときは、理事会決議を経る必要があります。

 

 なお、公認会計士または監査法人が財務諸表監査を行う場合は、この理事会決議の有無について理事会の議事録を閲覧します。もし、債券取得時にこの決議がなければ、満期保有目的の債券とは認められませんので、その場合は、時価評価して会計を修正していただくことを指摘事項として挙げることになります。 

 

 したがって、決議することはもちろん、理事会議事録にもしっかりと決議内容を記載しておく必要もあります。

 

(2)能力要件について

 実務指針Q33では、法人が償還期間まで所有する能力についても規定されています。

 具体的には「満期までの資金繰計画等から見て、又は法律等の障害により継続的な保有が困難と判断される場合には、満期まで所有する能力があるとは認められない。」とされています。

 

 これは法人の経営成績が悪化傾向にある場合や、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っているケースを想定しているものと考えられます。

 このようなケースでは、仮に債券を取得したとしても、資金繰りが悪化し続けている状態だと、債券を保有し続けることができるような財政的な余裕はないため、どこかのタイミングで売却せざるをえないと想定されるためと考えられます。

 また、このようなケースでは、民事再生法などの法律等によって再建計画が策定され、その再建計画に基づいて、債券等の資産が半ば強制的に売却される可能性も想定されます。

 

 そのため、公益法人・一般法人においても、経営成績が毎期、悪化する傾向にあり資金繰りが芳しくない場合は、能力要件によって満期保有目的の債券として分類することが難しくなることもありえますので、注意が必要です。

  

 なお、この能力要件が設けられている理由は、満期保有目的の債券を取得原価で評価するのは、時価評価の例外的な取り扱いとなることから、「「満期まで所有する積極的な意思」という主観的な要件だけでなく、「満期まで所有する能力」という外形的な要件も必要であるとして、満期保有目的を厳格に定義することとした」ためです(日本公認会計士協会「金融商品会計に関する実務指針」273)。

 

3.時価評価となってしまう場合

 市場価格がある債券は原則として時価評価します。しかしながら、満期保有目的の債券について取得原価で評価するとした理由は、満期保有目的の債券は、満期まで保有することによる約定利息及び元本の受取りを目的としており、満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要がないたです(金融商品会計基準71)。

 

 そのため、満期保有目的の債券でなくなった場合は、価格変動のリスクが発生しますので、市場価格がある債券の場合は、時価評価することになります(公益法人会計基準第2 3(3))。

 

 この時価評価に伴って生じる評価差額は、当期の正味財産増減額として処理することになります。(公益法人会計基準(注10))

 

 したがって、公益目的で保有している場合は、公益目的事業会計の評価損益として計上されますので、収支相償の計算にも影響が出てきます。

 評価損の場合はよいですが、もし評価益が発生し、それが原因で収支相償を満たせなくなった場合、厄介なことになります。

 というのは、この評価益はキャッシュ・フローの裏付けがありませんから、その評価益分の剰余金を解消するとなると、別途資金が必要になり資金繰りに影響が出てくるというケースも想定されるからです。

 

 したがって、債券を保有する場合は、満期保有目的の債券とし、途中で売却するようなことがないようにする必要があります。

正味財産増減計算書内訳表の様式
正味財産増減計算書内訳表の様式~「「公益法人会計基準」の運用指針」より

4.おわりに

 満期保有目的の債券は、市場価格がある場合であっても、時価評価の例外として取得原価で評価されます。これは満期まで保有することで債券の保有に伴うキャッシュ・フローがあらかじめ確定されるため、金利変動による価格変動リスクがないとされるためです。

 そのため、満期保有目的の債券とするための要件は厳格なものとなっています。したがって、この計上要件は必ず厳守する必要があります。そうしないと、時価評価となってしまい、収支相償に影響が出てしまう可能性があります。

 

 今回のブログが実務の参考になりましたら幸いです。

 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部門ではガバナンスに関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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