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公益法人における資産除去債務の留意点

公認会計士・税理士 森 智幸

1 はじめに

 公益社団法人、公益財団法人(以下「公益法人」)においても、資産除去債務に関する会計基準が適用されます(FAQⅥ-4-②)。

 したがって、資産除去債務を計上する必要がある公益法人は、会計基準に従って適切に計上する必要があります。

 今回は、この資産除去債務の計上方法と留意点について記載します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2 資産除去債務とは

(1)資産除去債務の意義

 資産除去債務とは、資産除去債務に関する会計基準 (以下「基準」)によれば「有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。」(基準3(1))とされています。

 

 例としては、法律等に基づくアスベストの除去、土壌汚染の除去といった有害物質等の除去を行う義務、賃貸契約に基づく原状回復義務などがあげられます。

 

 このような義務は、法人が負う将来の経済的な負担であるため、発生したときに負債として計上します(基準4)。

(2)公益法人で想定されるケース

  公益法人の場合は以下のケースが想定されます。

①会館や病院等の建物を所有している法人

 会館や病院等の建物を所有している法人は、その会館や病院等において、例えばアスベストが使用されているような場合は、その会館や病院等を解体するときに特殊な解体工事が必要になると考えられます。このような場合、資産除去債務の計上要件を満たしたときは資産除去債務を計上することになります。

 また、建物解体後に、土壌汚染の除去義務が発生するような場合も考えられます。

 

 このように、会館や病院等の建物を所有している法人で、特に解体を予定しているような法人は、有害物質等の除去について法律等に基づく義務があるかどうかを把握しておく必要があります。

②建物の一室を賃借している法人

 一方、建物の一室を賃借している場合も、通常、退去時に原状回復義務が生じます。

 

 このような賃貸借契約に基づく原状回復義務も法律上の義務に準ずるものとなりますので(基準28)、計上要件を満たした場合は原則として資産除去債務を計上することになります。

 

 ただし、この場合は容認処理として、敷金のうち原状回復相当額を一定の年数において償却するという処理も認められています(資産除去債務に関する会計基準の適用指針(以下「適用指針」9)。なお、この容認処理については、過去ブログの「敷金・保証金の会計処理に関する注意点~公益法人」にも記載しております。

3 会計処理方法

 ここでは、原則処理と容認処理について設例を用いて説明します。

(1)原則処理

【設例】

 公益社団法人X協会は、4年後に会館を建て替えるにあたって、有害化学物質の除去を法律で義務付けられることになった。

 有害化学物質の除去にかかる将来キャッシュ・フローは133.1、割引率は10%と見積もったとする。 

 この場合、各年度末の資産除去債務は以下の金額となります。

  • ✕1年度末 100
  • ✕2年度末 110
  • ✕3年度末 121
  • ✕4年度末 133.1

 ✕1年度の仕訳は以下のとおりとなります。

 

(借方)建物 100 (貸方)資産除去債務 100

 

 次に、✕2年度の仕訳は以下のとおりとなります。

 

(借方)利息費用 10  (貸方)資産除去債務 10

(借方)減価償却費 25 (貸方)減価償却累計額 25

 

 利息費用10は、✕1年度末に計上した資産除去債務100✕10%により計算します。

 また、4年後に解体するので、資産除去債務にかかる建物の耐用年数は4年とします。したがって、100÷4=25が減価償却費として計上されます。

 以後、✕4年度末まで、同じように計算していきます。その結果、最終的に資産除去債務は133.1となります。

 

 なお、利息費用は、対象となっている有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて事業費又は管理費に計上することになります(「公益法人会計基準に関する実務指針」(日本公認会計士協会)Q49参照)

(2)容認処理

【設例】

 公益財団法人Y財団は、京都市下京区のオフィスビルの一室を賃貸している。

 敷金は300であったが、業者によると原状回復の見積額は50と見積もられた。うち30は敷引の額が当てられるため、敷金のうち回収が最終的に見込めないと認められる金額は20となった。

 また、平均的な入居期間は5年と見積もられた。当法人は3月決算である。

 なお、文章中の「敷引」とは敷金のうち返還されない部分をいいます。関西などの西日本の不動産取引でよく見られる商慣習です。

 

 決算時の仕訳は以下のとおりです。

 

(借方)敷金償却費 4 (貸方)敷金 4

 

 この敷金償却費は、敷金のうち回収が最終的に見込めないと認められる金額20÷平均的な入居期間5年=4によって求められます。

 この会計処理が5事業年度にわたって行われます。

4 おわりに

 資産除去債務の原則処理は、将来キャッシュ・フローの割引計算を行う必要があるため、実務で会計処理を行うとなるとなかなか難しい面がありますが、公益法人会計においても、その適用が求められているため、要件を満たしている場合は実施する必要があります。

 今回のブログが実務の参考となりましたら幸いです。 

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