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受取会費の会計処理に係る留意点~公益法人

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 受取会費は現金主義ではなく、発生主義で認識する必要がある。
  • 未納の会費がある場合は、貸倒引当金の設定の要否を検討する必要がある。

1.はじめに

 今回は、公益法人会計基準の適用対象となる公益法人のうち、受取会費が発生する法人における会計処理の留意点を記載します。

 受取会費の処理については、特に難しい点はありませんが、若干の注意が必要となります。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.会計処理

(1)未収の場合

 受取会費に係る会計処理の留意点の一つは、発生主義による会計処理を行う必要があるという点です。

 これは、その事業年度において発生した受取会費はすべて計上するということです。

 すなわち、入金があったもののみを受取会費とするのではなく、その事業年度に受取るべき会費を受取会費として経常収益に計上する必要があります。

 未収の会費については、計上漏れとなっているケースがよくありますのでもれなく計上する必要があります。

 【設例1】(単位:円)

①会員500名のうち490人について✕1事業年度の会費が期末までに振込口座に入金された。(会費:1人1,000円)

 

(借方)現金預金 490,000 (貸方)受取会費 490,000

 

②10名については、期末時においても入金がなかった。

 

(借方)未収会費 10,000 (貸方)受取会費 10,000

 

 なお、科目名については「「公益法人会計基準」の運用指針」12の中の「(1)貸借対照表に係る科目及び取扱要領」において、中科目として「未収会費」という科目が掲げられています。

 

(2)前受の場合

 なお、年度前に入金があった場合は前受金で処理します。

 「「公益法人会計基準」の運用指針」12の中の「(1)貸借対照表に係る科目及び取扱要領」では、「前受金」の取扱要領の欄に「受取会費等の前受額」と記載されています。

【設例2】(単位:円)

 会員のうち、2名から翌事業年度分の会費の入金があった。(会費:1人1,000円)

 

(借方)現金預金 2,000 (貸方)前受金 2,000

 

3.未納の会員がいる場合~貸倒引当金の設定

 未収会費が発生している場合、督促後すぐに入金があれば問題はありませんが、中には、1年以上未納となっているケースも見受けられます。

 

 公益法人会計においても、金融商品会計基準に基づいて会計処理を行う必要がありますので、未収会費についても①一般債権、②貸倒懸念債権、③破産更生債権等に区分し、貸倒引当金の設定の要否を検討する必要があります。

 

 このうち、②貸倒懸念債権とは「経営破綻の状況には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」をいいます(金融商品会計基準第27項(2))。 

 また、「債務の弁済に重大な問題が生じている」とは、「現に債務の弁済がおおむね1年以上延滞している場合のほか、弁済期間の延長又は弁済の一時棚上げ及び元金又は利息の一部を免除するなど債務者に対し弁済条件の大幅な緩和を行っている場合が含まれる。」とされています(金融商品会計に関する実務指針112)。

 

 会費については、売掛金や貸付金のように、取引先の財政状態等を考慮する必要性は低いと考えられますので、未納の状態が1年以上続いている場合について検討すればよいのではないかと考えられます。

 

 また、貸倒懸念債権に対する貸倒引当金の設定方法としては、金融商品会計に関する実務指針114では、簡便法(貸倒懸念債権と初めて認定した期には、担保の処分見込額及び保証による回収見込額を控除した残額の50%を引き当て、次年度以降において、毎期見直す等)が紹介されています。

 これを参考とすると、未納の状態が1年続いた場合は50%の貸倒引当金を設定し、除名となる期間まで段階的に貸倒引当金を積み増していくという方法も考えられます。

 

【設例3】(単位:円)

 ✕1年度末において会員のうち10名は会費が未納となっており、督促をしたものの✕2年度末においても入金がなかった。(会費:1人1,000円)

 当法人では、会員規程◯条において、会費を3年分滞納したときは除名するとしている。

 また、当法人では、会費の未納の状態が入金期日から1年となった会員については、その会員の未収会費はすべて貸倒懸念債権に分類し、貸倒引当金については1年目は未収会費合計に対して50%を、2年目は未収会費全額に対して設定するものとしている。

 

①✕1年度末(1年分滞納)

(借方)未収会費 10,000 (貸方)受取会費 10,000

 

②✕2年度末(2年分滞納)

(借方)未収会費 10,000 (貸方)受取会費 10,000

(借方)貸倒引当金繰入額 10,000 (貸方)貸倒引当金 10,000

 

→✕1年度末が期限の会費が✕2年度末になっても入金されないので、この時点で未納の状態が1年続いていると考え、貸倒懸念債権に分類する。

未収会費の合計は20,000円となったので20,000円✕50%=10,000円を貸倒引当金として設定する。

 

③✕3年度末(3年分滞納)

(借方)未収会費 10,000 (貸方)受取会費 10,000

(借方)貸倒引当金繰入額 20,000 (貸方)貸倒引当金 20,000

 

→3年分滞納となったので、全員除名することとした。

未収会費の合計は30,000円なので、貸倒引当金20,000円を加算し、計30,000円とする。

 

 以上は、あくまで例ですので、各法人で貸倒引当金の設定基準を経理規則などで定めて頂いて結構です。

 

 なお、元会員が経営破綻となり会費を払うことがほぼ無理となった、連絡がつかず行方不明となったといった場合は、破産更生債権等に振り替えることが必要であると考えられます。

4.おわりに

 多くの法人では、未収会費の金額は大きくないため、金額的な重要性は低いものの、受取会費はもれなく計上する必要があります。

 また、会費について貸倒のケースはあまり多くはないと想定されますが、例えば、観光協会のように会員の中に飲食業など新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者がいる場合、会費の未納の発生や貸倒の発生がこれまでよりも多くなることも考えられます。

 したがって、貸倒引当金の設定基準を決めておくことが、適切な財務諸表を作成する上で必要であると考えられます。