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収益事業等の利益を公益目的事業会計へ繰入れる場合の計算方法と留意点~公益法人

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 収益事業等の利益は公益目的事業会計に繰入れる必要がある。
  • 管理費の按分方法は合理的な基準であればよい。
  • 収益事業等の利益の繰入額は、50%を繰入れる場合は、1円未満端数切上げとなるので注意が必要である。

1.はじめに

 公益社団法人、公益財団法人(以下「公益法人」)では、収益事業等において利益が生じた場合、その利益を公益目的事業会計へ繰入れる必要があります。

 これは収支相償の計算において必要となるものですが、今回はこの計算における留意点を記載します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.管理費の按分方法

(1)合理的な基準であればOK

 収益事業やその他事業における利益のうち公益目的事業会計に繰入れる金額は別表A(3)で計算します。

 この計算において、別表A(3)では8欄に「管理費のうち収益事業・その他事業に按分される額の控除」という項目があります。

 これは、管理費のうち収益事業やその他事業に貢献している金額は、収益事業やその他事業の費用として計算するというものです。

 この按分計算の方法は、内閣府の「定期提出書類の手引 公益法人編」(以下「手引」)によれば、合理的な基準であればよいとされており、特定の計算方法は定められていません。

 

 「手引」では例として、会計上の事業費の比率で按分する方法が紹介されていることから、多くの公益法人が、この方法によって計算されていると思います。

 なお、「会計上の事業費」とは、正味財産増減計算書内訳書に計上されている事業費ということです。事業費については、公益目的事業比率の計算のため別表B(1)でも計算しますが、このときに計算される事業費ではないので注意が必要です。

 

 なお、ある公益法人では、立入検査のときに「経常外費用も含めないといけません」と言われたと聞きましたが、そのような決まりは全くありません。上記の通り、合理的な基準であれば問題はありません。もしそのように言われた場合は、内閣府の手引を提示すればよいでしょう。

 

 以下、会計上の事業費で按分する方法の計算例を記載します。

(2)計算例~50%を繰入れる場合

 上記の表を例にすると、管理費(法人会計の経常費用)は100なので、これを公益目的事業会計と収益事業会計に按分します。

 会計上の事業費で按分しますので、

 

 管理費100✕収益事業会計の事業費100÷(公益目的事業会計の事業費1,000+収益事業会計の事業費200)=16.6666666・・・・

 

 となります。

 

 この管理費の按分額ですが、上記の通り、あくまで「合理的な基準」に基づいているものですので、端数処理の規定はありません。従って、この按分額の端数処理については法人の自由となります。

 ここでは、1円未満切り上げとして17とします。 

3.利益の繰入額の算定における注意点

 しかしながら、収益事業等から生じた利益の繰入額の算定における端数処理については注意が必要です。

 ここでは、収益事業等の当期利益総額の50%を繰入れる例としていますが、この場合の公益目的事業会計への繰入額は「1円未満端数切上げ」となります。

 

 以下は内閣府の手引の一部です。

内閣府「定期提出書類の手引 公益法人編」
内閣府「定期提出書類の手引 公益法人編」より引用

 

 先ほどの計算の続きを見てみますと、管理費の按分額が17となるので、調整後の収益事業等の当期利益総額は

 

 100-17=83

 

 となります。

 

 そして、この83の50%を公益目的事業会計へ繰入れることになりますが、1円未満端数切上げとなりますので、

 

 83×50%=41.5→42 

 

 となります。

 

 この端数処理を誤ると、確実に行政庁から補正依頼が来ます。

 そのようになった場合、A(3)は補正により正しい数値に直すことができますが、正味財産増減計算書内訳書の他会計振替額との金額が1円ズレてしまいますので、決算整理においては十分注意する必要があります。

 

 なお、その他事業(相互扶助等事業)がある場合も同様に計算します。

 

 以下は、A(3)の記載例です。

A(3)

4.最後に

 収益事業等の利益を公益目的事業会計に繰入れるときの計算は、特に難しいものではありませんが、50%を繰入れる場合、その繰入額については端数処理の決まりがありますので注意が必要です。

 従って、この繰入額を計算するときには必ず計算式を残すことが望まれます。

 具体例としては、表計算で計算式を組んでおき、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計の事業費を入力すれば、自動的に計算できる仕組みを作っておくという方法があります。そのようにすれば、毎期迷わなくてすむと思います。

 

 参考となりましたら幸いです。 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、海外子会社のJ-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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