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正味財産増減計算書の表示に係る留意点~公益法人

1.はじめに

 公益法人会計基準における公益法人や移行法人は、公益法人会計基準「公益法人会計基準」の運用指針(以下「運用指針」)の規定を遵守する必要があります。

 今回は運用指針の最近の改正による正味財産増減計算書の表示にかかる留意点を記載したいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

2.「他会計振替前当期一般正味財産増減額」の記載

他会計振替前当期一般正味財産増減額の表示
平成29年度「公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」に基づいて作成

 平成30年6月の運用指針の改正により、正味財産増減計算書内訳表においては、他会計振替額の直前に「他会計振替前当期一般正味財産増減額」を表示することになっています。

 

 これは日本公認会計士協会から内閣府公益認定委員会に依頼があったことにより設けられたものです。 

 理由は、それまでの様式によると他会計振替額の直前で、他会計振替額を計算するための基礎となる一般正味財産増減額が集計されていなかったため、他会計振替額の蓋然性を直ちに確認できない状況にあったためです。

 

 確かに、旧様式では、他会計振替額の直前は当期経常外増減額が記載されているだけであり、他会計振替額の計上基礎となる他会計振替前の当期一般正味財産増減額が記載されていなかったので、他会計振替額がどのような金額から計算されているのかがわかりにくいものとなっていました。

 

 そこで、現行の正味財産増減計算書内訳表では、他会計振替額の直前に「他会計振替前当期一般正味財産増減額」を追加することとされました。

 なお、この表示の改正は平成30年4月1日以降開始する事業年度から適用することとされましたので、すでに適用されている規定です。

 

 なお、FAQ問Ⅵ-4-⑦にも「正味財産増減計算書内訳表の「他会計振替前当期一般正味財産増減額」はなぜ必要なのか教えてください。 」という質問が掲載されています。

 

3.為替差損益の表示

(1)表示の明確化

 為替差損益は、これまでも公益法人会計においても計上することが必要でしたが、表示をする場所については、運用指針「12.財務諸表の科目」において、為替差損益等の科目例示がないため、どのように処理すべきかが明確ではありませんでした。

 そこで、運用指針の改正により、為替差損益の表示場所が明確化されました。

 なお、この改正は平成30年4月1日以降開始する事業年度から適用することとされましたので、他会計振替前当期一般正味財産増減額と同様、すでに適用されている規定です。

 

(2)一般正味財産増減の部に計上される為替差損益

①時価法を適用した投資有価証券に係る為替差損益

 この場合は、評価損益等に為替差損益を含めて計上します。

基本財産評価損益

一般正味財産を充当した基本財産に含められている投資有価証券に時価法を適用した場合における以下の損益を計上する。

  • 評価損益
  • 売却損益
  • 為替差損益
特定資産評価損益 

 一般正味財産を充当した特定資産に含められている投資有価証券に時価法を適用した場合における以下の損益を計上する。

  • 評価損益
  • 売却損益
  • 為替差損益
投資有価証券評価損益等

投資有価証券に時価法を適用した場合における以下の損益を計上する。

  • 評価損益
  • 売却損益
  • 為替差損益

②その他の為替差損益

 一般正味財産増減の部で計上される為替差損益のうち、上記①以外の為替差損益は原則として経常収益及び経常費用に計上することとされました。

 具体的には以下のとおりです。

会計区分ごとの為替差損益  
純額で差益の場合 雑収益の直前に為替差益として計上
純額で差損の場合 雑費の直前に為替差損として計上

(3)指定正味財産増減の部に計上される為替差損益

 指定正味財産増減の部に計上される為替差損益については、表示科目が改正されています。

科目例示の改正

基本財産評価益、特定資産評価益、

基本財産評価損、特定資産評価損 を削除

基本財産評価損益等、

特定資産評価損益等 を追加

 そのうえで、指定正味財産増減の部に計上される為替差損益は以下のように計上されることになっています。

基本財産評価損益等 基本財産に係る為替差損益も含めて計上
特定資産評価損益等 特定資産に係る為替差損益も含めて計上

(4)為替差損益の相殺消去を行う場合

 会計区分ごとに計上された為替差益及び為替差損について「合計」欄算出のために消去を行う場合は、正味財産増減計算書内訳表の「内部取引等消去」欄を用いるものとするとされました。