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会計事務所の残業時間を減らす方法~ある会計事務所の事例より

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 会計事務所は残業時間が多い職場であるため、職員の離職率も高い傾向にある。そのため、残業時間を削減する必要がある。
  • ある会計事務所は、定時後に業務を依頼した場合は25%の割増報酬を要求するという条文を契約書に入れたという。
  • その結果、定時後に業務を依頼するお客様はなくなった。また、その条文について反対するお客様は皆無で、むしろ納得していた。
  • 残業時間を減少させるには、取引先同士のお互いの協力も必要である。

1.会計事務所と残業時間

 一般的に、会計事務所は残業が多い業種です。

 そのため、繁忙期はもちろん、繁忙期以外の日でも残業時間が長く、それがストレスになり、退職する職員は多く見られます。このように、会計事務所は職員の離職率が高い業種です。

 近年、税理士試験の受験者が減少している傾向にありますが、会計事務所の残業問題をクリアしないと、税理士業界に入ってくる人が減少してしまい、大げさかもしれませんが、業界の存亡にも関わってきます。

 残業問題は、IT化の促進によって業務を効率化するなど、業務手法の改革によってクリアしていくことも必要ですが、会計事務所とお客様のお互いの協力によって減少させていくことも必要です。

 今回は、会計事務所とお客様とのお互いの協力によって残業時間を減少させたという、ある会計事務所の事例を紹介します。

2.ある会計事務所の事例

 ある会計事務所の集まりの懇親会で横の席になった方から聞いた話ですが、その会計事務所では、業務契約書に

 

「定時後に業務を依頼した場合は、25%の割増報酬を支払うこととする。」

 

という条文を入れたそうです。

 

 例えば、午後5時30分終了という会計事務所であれば、お客様が午後5時30分よりも後の時間に、電話やメールで業務を依頼してきた場合は、現在の顧問報酬に加えて25%の割増報酬を支払っていただくということです。 

 

 すると、定時後に業務を依頼するお客様は全くなくなり、職員の残業時間も大幅に減少したそうです。

 

 また、この条文を設けることに反対するお客様もいなかったということです。

 むしろ、超勤手当は25%増となることと同じ論理であることから「確かにその通りである」とどのお客様も納得していたということです。

 

 ちなみに、その会計事務所は職員50人以上の大型会計事務所です。

3.取引先同士の協力も必要

 定時後に電話やメールで業務を依頼してきたり、質問をしてきたりする法人や個人のお客様は確かにいます。

 このように、定時後に業務を依頼してくると、会計事務所の職員は、帰りづらくなります。場合によっては、「こちらが夜遅くまで働いているのに、なぜ会計事務所の職員が先に帰るのか」と言ってくるところもあると聞きます。

 

 しかし、そのようなことが続いてしまうと残業問題は解消できません。

 会計事務所の残業問題は、業務の効率化の問題だけでなく、相手側にも問題があることもあります。

 そのため、残業問題を解消するためには、取引先同士の協力も必要です。

 

 ある会計事務所の事例でしたが、会計事務所の皆様の参考となりましたら幸いです。

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。