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オフィス規模を縮小したときに生じる会計上の論点

公認会計士・税理士 森 智幸

1.富士通がオフィス規模を半減へ

 富士通は2020年7月6日付で「ニューノーマルにおける新たな働き方「Work Life Shift」を推進」を公表しました。それによると、今後はオフィスの規模を現状の50%程度にし、通勤手当も廃止するということです。

 今回の新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの企業でリモートによる在宅勤務が行われましたが、在宅勤務を行ってみると、オフィスに出勤しなくても、いろいろな業務を行うことができるということが多くのビジネスパーソンに認識されることになりました。

 その結果、このようにオフィス規模を縮小し、在宅勤務を前提にして大都市近郊にサテライトオフィスを設けるという方式を模索している企業が増えてきています。

 そこで、今回は、賃貸オフィスを前提に、オフィス規模の縮小を行った場合に生じる会計上の論点を整理してみたいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.減損会計の適用の要否の検討

(1)グルーピングの検討

 賃貸オフィスの場合、オフィス規模の削減となると、例えば、あるオフィスビルの40階から43階までの4フロアすべてを借りている場合、そのうち2フロアを解約して2フロアのみとするという方法が考えられます。

 賃貸オフィスにおける固定資産となると、パーテーションなどの建物附属設備が考えられます。

 

 色々な考え方があると思いますが、この解約するフロアに係る建物附属設備などの固定資産につき、まずグルーピングの変更の可能性が考えられます。

 

 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」8項では、

 

「取締役会や常務会等(以下「取締役会等」という。)において、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を行い、その代替的な投資も予定されていないときなど、これらに係る資産を切り離しても他の資産又は資産グループの使用にほとんど影響を与えない場合がある。このような場合に該当する資産のうち重要なものは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱う」

 

 とされています。

 そのため、解約するフロアに係る固定資産に重要性がある場合は、解約予定のフロアに係る固定資産を他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位とすることも考えられます。従って、まずグルーピングの変更の要否を検討する必要があるかと思います。

(2)減損の兆候の検討

 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」13項(2)では、「使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合」として、

 

「当初の予定よりも著しく早期に資産又は資産グループを除却や売却などにより処分すること。この事象は償却資産に限らない」

 

 という例示が挙げられています。

 解約予定のフロアに係る資産又は資産グループが、当初の予定よりも著しく早期に処分するという要件に当てはまれば減損の兆候に該当することになります。

 減損の兆候があると判定されれば、その後は減損損失の認識の判定、減損損失の測定に進んでいくことになります。

3.有形固定資産の減価償却費や除売却損

(1)耐用年数の変更

 オフィスを縮小するとなると、縮小するオフィスに係る有形固定資産の耐用年数の変更が考えられます。

 取締役会など、会社の意思決定機関において閉鎖する年月が決定されれば、その年月を償却最終年月として現在の耐用年数を変更することになるかと思います。

 なお、耐用年数の変更が過去の誤謬に該当するかどうかですが、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」12項では、

 

「過去の見積りの方法がその見積りの時点で合理的なものであり、それ以降の見積りの変更も合理的な方法に基づく場合、当該変更は過去の誤謬の訂正には該当しない。例えば、有形固定資産の耐用年数の変更について、過去に定めた耐用年数が、これを定めた時点での合理的な見積りに基づくものであり、それ以降の変更も合理的な見積りによるものであれば、当該変更は過去の誤謬の訂正には該当せず、会計上の見積りの変更に該当する。一方、過去に定めた耐用年数がその時点での合理的な見積りに基づくものでなく、これを事後的に合理的な見積りに基づいたものに変更する場合には、過去の誤謬の訂正に該当する。 」

 

 としています。

 そのため、オフィスの縮小に伴う耐用年数の変更について、上記のような合理性があれば会計上の見積りに該当することになります。その場合は「当該変更が変更期間のみに影響する場合には、当該変更期間に会計処理を行い、当該変更が将来の期間にも影響する場合には、将来にわたり会計処理を行う」(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準17項)ということになります。

(2)除却損や売却損益の発生

 オフィスを一部閉鎖するとなると、建物附属設備などの有形固定資産を除売却することになると思います。

 除売却した場合は、固定資産除却損や固定資産売却損益が発生します。

 以前、旧ブログで「有形固定資産の除却について」というブログを書きましたが、期中の減価償却費を反映する会計処理と反映しない処理があります。実務では期中の減価償却費を反映しない処理がよく見られます。

4.資産除去債務

(1)原則法による場合

 オフィスを解約して退出するときは通常は、契約で原状回復を行うことが定められていると思います。そのときに支出する原状回復費については、会計上、原則としては資産除去債務として計上します。

 資産除去債務の見積もりの変更については「資産除去債務に関する会計基準」第10項などに記載されていますが、会計基準は将来キャッシュ・フローの見積額の変更を想定しているようで、今回のように見積り期間の変更は想定していないようです。

 私見ですが、オフィスの解約決定により見積り期間が予定よりも早まった場合、将来キャッシュ・フローの見積額の変更がないことを前提とすると、将来キャッシュ・フローの見積額を残りの期間で割引いた金額を計算するということが考えられます。

 

 極端な例ですが、期間を4年、将来キャッシュ・フロー(原状回復費)を133.1、割引率10%と見積もったとします。

 すると、各年度末の資産除去債務は以下の金額となります。

  • 1年度末 100
  • 2年度末 110
  • 3年度末 121
  • 4年度末 133.1

 ここで、2年度中に、3年度末でオフィスフロアを解約することが決定したとします。(原状回復費の見積額は変化なしとします)

 そうなると、残りの期間は1年なので、✕2年度末に計上すべき資産除去債務は、133.1÷1.1=121 となります。

 その結果、現状では121-110=11が不足しますから、この金額を調整計上するということが考えられます。仕訳をおこすと以下になります。

 

(借方)有形固定資産 11 (貸方)資産除去債務 11

 

 なお、原状回復費の金額が変化した場合は、「資産除去債務に関する会計基準」第10項及び第11項、「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」設例5などに従って計算する必要があります。

(2)容認法による場合

 ただし、原状回復費については、「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」9項において、

 

建物等の賃借契約において、当該賃借建物等に係る有形固定資産(内部造作等)の除去などの原状回復が契約で要求されていることから、当該有形固定資産に関連する資産除去債務を計上しなければならない場合がある。この場合において、当該賃借契約に関連する敷金が資産計上されているときは、当該計上額に関連する部分について、当該資産除去債務の負債計上及びこれに対応する除去費用の資産計上に代えて、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができる。」

 

とされていることから、実務上はこの容認法を適用されている会社も多いと思います。この方法は敷金のうち、原状回復に充てられ、返還見込みがない部分について、見積り期間で償却するというものです。

 

 この場合も、減価償却の耐用年数の変更と同様に、見積り期間(平均的な入居期間など)を変更して、変更後の敷金の償却額を計算すればよいかと思います。

5.違約金や解約金の発生

 デロイトの「店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失の会計処理」によると、リース解約違約金や賃貸借契約解約違約金は引当金の計上要件を満たすと考えられるとされています。そのため、引当金計上の4要件(①特定の費用又は損失、②その発生が当期以前の事象に起因、③発生の可能性が高い、④金額を合理的に見積もることができる)を満たした場合は引当金を計上することになります。従って、これらの違約金等が発生した場合、引当金の計上の要否を検討する必要があります。

 なお、店舗閉鎖損失引当金についてデロイトは、固定資産除却損・売却損については「一般的には引当金としては会計処理されないと考えられる。」と記載されていますが、私の経験では、固定資産除却損について引当計上している実務もよく見られます。

 このあたりは、公認会計士や監査法人と話し合われるとよいかと思います。