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子会社株式の減損とのれんの追加的な償却処理

公認会計士・税理士 森 智幸

1.はじめに

 今回は、日本公認会計士協会による「会計制度委員会報告第7号 連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の第32項に基づく、のれんの追加的な償却処理について説明します。

 この論点は、どちらかというとあまり馴染みがない論点ではないかと思います。この会計処理はあくまで、のれんの「償却」なので減損とは異なるのですが、超過収益力等の減少を反映するという点で似たような論点となっており、少しわかりにくい論点ではないかと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.三菱UFJフィナンシャル・グループの事例

 まず、事例から見てみます。

 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループは2020年3月期の定期株主総会の資料をホームページ上で開示していますが、「法令及び定款に基づくインターネット開示事項」の中で、のれんの追加的な償却処理について記載しています。

 

 

 連結損益計算書には特別損失として「のれん償却額」343,368百万円が計上されていますが、こののれん償却額について連結損益計算書に関する注記では

 

「「のれん償却額」は、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(平成10年5月12日 日本公認会計士協会。以下、「資本連結実務指針」という。)第32項の規定に基づき、国内の連結される銀行子会社が保有するPT ank Danamon Indonesia, Tbk.及びBank of Ayudhya Public Company Limited株式の市場価格下落を受けた減損処理に伴って、のれんを償却したものであります。」(ゴシック、赤文字は筆者)

 

 と記載されています。

 これは、簡単に記載すると、

 

①連結子会社である三菱UFJ銀行が保有する子会社株式(バンクダナモンの株式とアユタヤ銀行の株式)の減損処理後の帳簿価額(=個別財務諸表上の子会社株式の帳簿価額)と、

②連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれん未償却額(借方)との合計額(=連結上の子会社株式の帳簿価額)

 

 を比較すると①が②を下回っているため、①と②の差額分について、のれんを追加的に償却してのれんの帳簿価額を減額したということです。

3.制度の概要

(1)資本連結実務指針第32項とは

 この会計処理は、冒頭に記載したように、日本公認会計士協会による「会計制度委員会報告第7号 連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(以下「資本連結実務指針」)の第32項に基づくものです。

 

 まず、資本連結実務指針の第32項の条文を記載すると以下の通りです。

 

「子会社ごとののれんの純借方残高(連結原則に基づいて会計処理している場合には、借方残高(のれん)と貸方残高(負ののれん)との相殺後)について、親会社の個別財務諸表上、子会社株式の簿価を減損処理(金融商品会計実務指針第91項、第92項及び第283-2項から第285項に従う処理をいう。)したことにより、減損処理後の簿価が連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれん未償却額(借方)との合計額を下回った場合には、株式取得時に見込まれた超過収益力等の減少を反映するために、子会社株式の減損処理後の簿価と、連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれん未償却額(借方)との合計額との差額のうち、のれん未償却額(借方)に達するまでの金額についてのれん純借方残高から控除し、連結損益計算書にのれん償却額として計上しなければならない。」(ゴシック、赤文字は筆者)

(2)簡単な計算例

 文章だけだとわかりにくいので、簡単な計算例を書いてみます。

 期首に、ある会社(以下A社とします)の発行済株式すべてを取得して100%の連結子会社にしたとします。このときのA社の純資産は1,000とし、取得金額は1,500とします。このときに発生するのれんは500です。のれんは5年で償却するとします。

 

 しかし、1年後、A社の業績が極度に悪化し、株価は500まで下落したとします。

 また、A社の純資産は300になったとします。

 

 親会社では、A社の株式を減損することとして帳簿価額を500にしたとします。これは個別財務諸表上の子会社株式の帳簿価額です。

 

 一方、連結上の子会社株式の帳簿価額は以下の通りとなります。 

 まず、通常ののれんの償却が行われます。5年償却なので償却額は100となります。その結果、この時点でのれんの帳簿価額は400となります。

 仕訳は以下のとおりです。

 

(借方)のれん償却額 100 (貸方)のれん 100

 

 次に、純資産をみてみると1,000から300となっています。

 100%取得ですから、この300が子会社の資本の親会社持分額となります。

 その結果、この親会社持分300とのれんの帳簿価額400を足した700が連結財務諸表上の帳簿価額となります。

 

 ここで、個別財務諸表上の子会社株式の帳簿価額と連結財務諸表上の子会社株式の帳簿価額を比較すると以下のようになります。

 

 (イ)個別財務諸表上の子会社株式の帳簿価額→500

 (ロ)連結財務諸表上の子会社株式の帳簿価額→700

 

 これは、資本連結実務指針32項における「減損処理後の簿価が連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれん未償却額(借方)との合計額を下回った場合」に該当します。

 減損処理後の簿価は(イ)の500に相当し、連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれん未償却額(借方)との合計額は(ロ)の700に相当するためです。

 このような状態になったときは、差額の200について、のれんの追加的な償却を行い、連結財務諸表上の子会社株式の帳簿価額を減額することになります。なお、追加的な償却はのれんの帳簿価額を上限とします。

 

 仕訳は以下のとおりです。

 

(借方)のれん償却額 200 (貸方)のれん 200

 

 この結果、追加償却後ののれんの帳簿価額は200となります。

4.ASBJにおける議論

 しかし、こののれんの追加的な償却は、あくまで償却なので減損会計の適用ではありません。

 しかし、資本連結実務指針第32項では「超過収益力等の減少の反映するため」にこの追加的な償却を行うとされており、減損会計との違いがわかりにくいものとなっています。

 

 実は、こののれんの追加的な償却については企業会計基準委員会(ASBJ)において「第 32 項に定めるのれんの償却処理(以下「のれんの追加的な償却処理」)という。)を同第 33 項ののれんの減損の会計処理に重ねて適用することは不合理な帰結となる場合があるとし、同第 32 項を削除することが提案されている。 」(第 378 回企業会計基準委員会  2018年2月9日)とされており、ASBJの主導により、将来は、こののれんの追加的な償却は実務上、行われなくなる可能性もあります。

 

 とはいえ、現行においては、資本連結実務指針第32項の要件を満たした場合は、のれんの追加的な償却を行う必要があるので留意が必要です。