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家賃の確保の必要性~新型コロナウイルスの影響

公認会計士・税理士 森 智幸

1.資金繰りの優先順位

 新型コロナウイルス感染症の拡大が、現時点でも止まりません。それどころか、より拡大しています。

 日本経済新聞によれば、中小企業の資金難が深刻な状態に陥っており、金融機関に融資や相談の申込みが増加しているという記事も掲載されています(2020年3月27日「中小の資金繰り深刻 融資実行件数、申し込みの半分」)。

 今回は、資金繰りには優先順位をつけ、中でも家賃の確保を最優先すべきであることを説明したいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。 

2.家賃の滞納をした場合の危険性

(1)立ち退きのリスク

 私は、これまで業績が悪化した企業の財務諸表監査も行ってきました。

 そのときにわかったことは、業績の悪化により資金繰りが悪化した場合、まず家賃の支払いができるようにしておくことが重要であるということです。

 

 企業の多くはオフィスビルに賃貸で入居しています。自社ビルであれば、家賃の心配はありませんが、賃貸の場合、家賃を支払う必要があります。この家賃を滞納すると、非常に具合の悪いことが起こってきます。1回目あたりならば、謝って済むケースもありますが、何回も続けて家賃を滞納していると、立ち退かされる可能性が高くなります。

 大家と交渉して家賃を減額してもらい、家賃は払い続けるという方法もありますが、賃貸側からすれば、今よりも高い家賃でもよいから入居したいという企業があれば、そちらを優先したいというところが多いと思います。 

 そのため、家賃を減額してもらっても立ち退きのリスクはあるといえます。

 

 さらに、最悪の場合は、電気を止められるリスクもあります。

 なお、この電気の停止は電力会社が行う場合もあれば、大家が行う場合もあるようです。ただし、大家が行うと法的に問題もあるようです。しかし、このあたりは私は詳しくないので、ここまでとしておきます。

 

 どのようなケースであるにしろ、結果的に電気を止められてしまうと、企業活動は実質的にできなくなります。なぜかというと、現代ではどの企業もパソコンを使用していますが、そのパソコンを使用できなくなってしまうからです。バッテリーでも動きますが、時間が限られています。

 また、現代の固定電話は、電源も必要です。電気を止められると、外部から電話が繋がらなくなります。そのため、取引先との通話ができないばかりか、取引先にも動揺が走ります。

 私が聞いたケースでは、店舗がテナント料を滞納してしまったため、店舗の電気を止められてしまったというケースがあります。  

(2)企業活動ができなければ、資金は稼げない

 立ち退きをさせられてしまい、次の場所が見つからない、あるいは電気を止められてしまったという場合、企業活動ができなくなります。企業活動ができなければ、売上は発生しませんし、利益も発生しません。当然、キャッシュ・インフローも発生しません。そのため、企業の資金繰りはますます悪化してしまいます。資金繰りが悪化すると経営破綻のリスクも出てきます。

 従って、何が何でも企業活動を行うことができる場所を確保する必要があります。そのためには、家賃の滞納をしないことが必要です。

 もちろん、今よりも安い家賃のオフィスビルに引っ越すという「リストラ移転」も有効な方法ですが、現在のように急激に経済環境が悪化した場合は、時間的な余裕がないと思います。

(3)大家は甘くない

 税金や社会保険料を滞納するとペナルティがあるが、家賃は大家と交渉可能なので、家賃よりも税金や社会保険料の納付を優先すべきという考えもあるとは思いますが、私がこれまでの業務で見てきて感じたのは「大家は甘くない」というものです。

 

 大家さんは、ちゃんと家賃を支払ってくれる会社を優先します。逆に言うと、ちゃんと支払わない会社には厳しくなります。

 一方で、税金や社会保険料については、後述しますが、先日ご紹介したように猶予制度があります。実は、税務署や年金事務所は、資金繰りが苦しい会社の話は事情を聞いてくれます。

 そのため、私は税金や社会保険料の納付よりも、家賃の支払いのほうが大事だと思っています。

3.納税・納付猶予制度の利用

(1)資金繰りの悪化の緩和

 現行の国税徴収法では、国税を一時に納付することができない場合、税務署に申請すれば、法令の要件を満たすことで、原則として1年以内の期間に限り、換価の猶予が認められます(国税徴収法第151条の2)。

 私が財務諸表監査で見てきた会社の中にも、猶予制度を利用して、国税の納付を遅らせていた会社はありました。

 もちろん、猶予であり免除ではありませんので、どこかのタイミングで納付する必要はありますが、キャッシュ・アウトフローの発生を遅らせることができるので、資金繰りの悪化を緩和する効果があります。

 ただし、原則として担保の提供が必要であり、期限までに納付できなかった場合は差し押さえられてしまいます。私が見てきた中にも、期限までに納付できず定期預金を差し押さえられたケースもありました。

 また、一部免除されるものの延滞税も発生します。

 とはいえ、納税猶予制度は、キャッシュ・アウトフローのタイミングを遅らせる効果があるので、資金繰りが悪化した場合は利用する価値があると思います。 

(2)新型コロナウイルス感染症の影響を考慮した猶予制度

 最後に、これまでにもご紹介しましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、国税庁や日本年金機構は、国税の納税猶予制度、厚生年金保険料等の納付猶予制度をアナウンスしています。

 以下、いまいちどご紹介します。クリックすると、該当ページに移ります。

 これらの制度を積極的に利用し、キャッシュ・アウトフローのタイミングを少しでも遅らせて、資金繰りの緩和につなげるとよいかと思います。