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働き方改革と経理業務の効率化(1)~振替伝票の作成改革

1.はじめに

 今回は、働き方改革の一環として、経理業務の効率化に向けての具体的な方法を紹介したいと思います。

 本稿では、自動仕訳を導入していない企業を前提に記載しています。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.働き方改革とは

 まず、政府が提唱する働き方改革の内容を見てみます。 

 厚生労働省のリーフレット「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」では、ポイントⅠとして「労働時間法制の見直し」を、ポイントⅡでは雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」が示されています。

 経理業務効率化となると、このうちポイントⅠ「労働時間法制の見直し」に関わってきます。

 そこで、さらにこのポイントⅠについてみてみると、見直しの内容として以下の7項目が挙げられています。

 

①残業時間の上限を規制します

② 「勤務間インターバル」制度の導入を促します

③ 1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得を、企業に義務づけます

④ 月60時間を超える残業は、割増賃金率を引上げます(25%→50%)

⑤ 労働時間の状況を客観的に把握するよう、企業に義務づけます 

➅ 「フレックスタイム制」により働きやすくするため、制度を拡充します 

⑦ 専門的な職業の方の自律的で創造的な働き方である「高度プロフェッショナル制度」を新設し、選択できるようにします

(以上、厚生労働省のリーフレットより転載)

 

 最終的な目的は、少子高齢化が進み人手不足が確実となる中、低いとされてきた我が国の生産性を向上させ、国民経済の向上を図ることにあります。

 そのため、上記のように、残業時間の上限規制や勤務間インターバル制度などにより、今後、長時間労働は抑制されていきます。

 このような中、経理に関係する業務も効率化を図り、残業時間の削減と人手不足への対応を実現させていく必要があります。

3.振替伝票の作成方法の改革

 (1)自動仕訳を導入しない企業等~その理由は?

 経理業務効率化となると、現在、最もポピュラーなのは自動仕訳システムの導入です。

 しかしながら、企業経営者の中には、FinTechを利用した自動仕訳に抵抗感を持つ方も少なくありません。理由として多いのは、安全性に問題はないのか、ハッキングなどが生じたらどうするのか、といった安全面への危惧です。

 そのため、自動仕訳を知っていても導入をしない企業等は依然として多く見られます。

 

(2)仕訳は直接、会計ソフトに入力する

 このような企業等では、これまで通り、経理担当者が会計ソフトに手作業で入力しながら経理業務を行っていくことになります。

 会計ソフトは、仕訳をおこせば、振替伝票が作成され、総勘定元帳や試算表も同時に作成される便利なものです。

 しかしながら、中小企業等で時々見られるのですが、この会計ソフトの入力手順で不効率な作業を行っていることがあります。

 それはどのような方法かというと、

 

 ①手書きの振替伝票を作成する → ②その振替伝票を上長に回付し承認を得る → ③その振替伝票の仕訳を会計ソフトに入力する

 

 というものです。

 

 しかしながら、これは、正直申し上げて不効率だと思います。

 なぜかというと、振替伝票を手書きで作成しなくても、会計ソフトに直接仕訳を入力すれば、振替伝票は自動的に作成されるからです。いわば、この方法は二度手間となっているといえます。

 

 従って、効率的な順序は、

 

 ①会計ソフトに仕訳を入力する → ②会計ソフトから振替伝票を印刷する → ③その振替伝票を上長に回付し承認を得る

 

 がよいと思います。

 もし、③の段階で修正事項が発見された場合、まだ月次決算が締まる前なので、会計ソフト上でその振替伝票を直接修正して差し支えないと思います。そして、最終的に問題がないと判断されれば、月次決算を締めて、ロックして上書きできないようにします。

 

(3)手書きの振替伝票を作成する方法の内部統制上の問題点

 上記の「①手書きの振替伝票を作成する → ②その振替伝票を上長に回付し承認を得る → ③その振替伝票の仕訳を会計ソフトに入力する」という手順は、業務効率の面で効率的ではないという問題点の他に、内部統制上の問題点もあります。

 

 それは、③その振替伝票の仕訳を会計ソフトに入力する」の次のステージで、何も行っていない場合です。

 もし、③の次のステージで、「上長は、会計ソフトの入力結果が正しいことを手書きの振替伝票と照合して確かめる」というコントロールがあればよいですが、多くの場合、このコントロールは設けていないと思います。

 

 このコントロールに不備があると、会計ソフトへの入力に誤りがあった場合、誰も気づかず、そのまま月次試算表、さらには年次決算書にも本来の数値とは異なる数値が反映されてしまうリスクがあります。

 すなわち、手書きの振替伝票では仕訳に問題はないものの、会計ソフトに入力するときに数値や勘定科目を誤ってしまうリスクはあります。

 従って、この手書きの振替伝票を作成してから会計ソフトに入力するという方法は、会計上の数値に誤りを生じさせるリスクがあるといえます。

4.なぜ変えられないのか

 実は、このような手書きの振替伝票を作成してから会計ソフトに入力するという方法を採用している会社等でも、現場の経理担当者の中には、この方法は不効率であると思っておられる方も多く見られます。そのように思っておられる経理担当者は、同時に、上記のように会計ソフトに直接入力するほうが効率的であると思っておられます。

 

 しかし、それではなぜ、この不効率な方法を変えられないのかというと、一つにはその会社等の風土が関係しているためです。

 具体的には、業務方法を改革しようと思っても、それを言い出すと「勝手なことを言うな。これまでこの方法で行ってきたのだから、文句を言わずにこの方法で行え。」という保守的な風土です。このような風土だと、社内には業務を改革しようという意識が乏しいため、なかなか業務改革を行えません。さらには、業務改革を行うと、それまでの業務方法が間違っていたと思われてしまうため、上席が変革に消極的という場合もあります。

 

 もう一つは、業務を改革すると自分の業務がなくなってしまうのではないかと不安に思い、経理担当者が業務方法を変えないケースもあります。

 これはベテランの経理担当者によく見られます。そのため、他の職員が経理業務の効率化を行いたいと考えていても、なかなか業務改革が進みません。

5.改革するには

 働き方改革の一環として、経理業務を効率化するための方法としては、1つにはやはりトップの意識と行動だと思います。

 経理業務を効率化するとなると、どうしても社内には上記4で記載したような抵抗勢力が出てきますので、そこはトップによる、ある意味強引ともいえるトップダウン方式で進めるほうがよいと思います。

 

 もう一つの方法は、公認会計士や税理士といった外部の専門家から改革案を提案してもらうことです。例えば、公認会計士や税理士などがアドバイザリー業務やコンサルティング業務として加わり、改善案を提案してもらうことが考えられます。

 このような公認会計士、税理士といった専門家が提案を行うと、その提案内容は重い意味を持つ傾向にあります。会社等としても「公認会計士、税理士がこのように言っているのだから」として、それを根拠に改革を進めやすくなります。

 従って、公認会計士や税理士と、アドバイザーやコンサルタントとして契約することも一つの手段です。 

【参考】自動仕訳の導入方法について


「税務弘報」2020年1月号
「税務弘報」2020年1月号

自動仕訳の導入方法や導入にあたっての注意点を「税務弘報」2020年1月号「顧問先への自動仕訳システム導入支援」というタイトルで記載しました。

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