合意された手続(AUP)

 森 智幸 公認会計士・税理士事務所では、クライアントと合意された手続を実施し、その手続の実施結果報告を行う「合意された手続業務」を行っています。

 合意された手続とは、"Agreed Upon Procedures"の日本語訳であり、英語の頭文字をとって"AUP"と呼ばれるときもあります。

 近年、このAUP業務が広がりを見せており、多様な分野でAUP業務のご依頼が増加しています。


1.AUP業務の例

   AUP業務には様々な分野があります。

 一昔前は、AUP業務というと「労働者派遣事業等の許可審査に係る中間又は月次決算に対する合意された手続業務」が多かったという印象です。

 しかしながら、近年はAUP業務が認知されつつあり、対象業務が広がってきています。

 

 日本公認会計士協会専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」では以下の例が示されています。

 

(1)過去財務情報に関する合意された手続業務

  •  売掛金
  •  買掛金
  •  関連当事者との取引
  •  事業セグメントの売上高及び利益
  •  個別の財務表(注)(例えば、貸借対照表)(注):「貸借対照表のみ」のように個別の場合は「財務表」と呼びます。
  •  完全な一組の財務諸表 

(2)過去財務情報以外の情報等

  •  次年度以降の事業計画等の将来財務情報
  •  コーポレート・ガバナンス
  •  法令遵守
  •  財務報告プロセス
  •  内部統制等の行為
  •  システム

2.活用例


 AUP業務の活用は自由に行うことができます。分野は決まっていません。

  例えば、金融機関が融資先の財務内容を調べたいというときにも活用できます。近年は、粉飾決算が原因で倒産する「粉飾倒産」が急激に増加しています。このようなことが起こると、金融機関は融資を全額回収することが困難となり、金額によっては金融機関の経営にも影響が出てしまいます。

 そこで、公認会計士にAUP業務を依頼し、例えば「試算表に計上されている売掛金は本当にこの金額なのかどうか、調べてほしい」という依頼もできます。

 監査法人に財務諸表監査を依頼すると、時間や費用もかかり大掛かりになってしまいますが、AUP業務であれば保証業務ではありませんが、監査よりは短い時間で、またリーズナブルな費用で行うことができます。

3.監査との違い

 1.では日本公認会計士協会の実務指針の記載をそのまま記載しましたが、これだけではどのような事を行うのかわかりにくいと思います。

 そこで実務指針4400の付録3の手続例4を参考に一例をあげてみます。

 

 例えば、ある会社の子会社に架空売上の疑いがあがったとします。親会社としては子会社の不正は防止したいので、売掛金の実在性についてのみチェックしたいと考えたとします。そこで、「残高確認を行い、その回答と帳簿残高と照合し一致を確かめる。不一致の場合は不一致の金額を記載し、不一致の理由を経理部長に質問し、回答を記載する。」という手続を行うということで公認会計士と合意したとします。この手続が「合意された手続」です。

 

 そして、公認会計士は売掛金残高について残高確認を行い、回答に記載された金額と帳簿残高とを照合します。

手続結果報告書には、結果のみを記載します。すなわち、どの残高が一致し、どの残高が不一致だったか、不一致だった場合の金額と経理部長の回答のみを記載します。

 

 監査と異なるのは、手続きを行った公認会計士が自己の判断を述べない点です。監査の場合は「結果」と「結論」があります。「結果」は上記の記載のように手続の顛末を表します。それに対して「結論」はその結果に基づいた自己の判断です。例えば「回答額と帳簿残高の差異内容に問題は認められず、売掛金残高の実在性については妥当であると判断する。」といった具合です。

 

 しかしながら、上記のようにAUP業務では「結果」のみが記載されます。一方、「結論」は記載してはならないとされています。このあたりは実務指針4400で「不適切な記載」として記載例が載っています。

また、同時に対象項目の保証も行いません。あくまで結果のみの報告となります。依頼者は手続実施結果に基づいて自ら結論を導くことになります(実務指針4400第6項)。

 

 このように、AUP業務では結論は述べませんし、保証も行いませんが、手続についてはそれまであらゆる監査手続を行ってきた公認会計士が行いますので、手続の選択や処理については確かなものがあります。